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マツダのコスモスポーツやRX-7に搭載された「ロータリーエンジン」とは?
四輪メディアでは、定期的といっていいほど頻繫に「ロータリーエンジン復活!」といった論調のスクープ記事が出る。ご存知のように、ロータリーエンジンといえばマツダのシンボルともいえるエンジンだが、今は量産されていない幻のエンジンだ。
過去の搭載車を振り返ると、コスモスポーツ、サバンナRX-3、ファミリア、ルーチェ、サバンナRX-7、アンフィニRX-7、そしてRX-8とスポーツカーが多い。なかでも唯一3ローターエンジンを載せたユーノスコスモは伝説となっている。
それゆえ、ロータリーエンジン復活の記事はスポーツカーとセットになっていることが多かったりもする。だから注目度が高く、多くの四輪メディアが騒ぎ立ててしまうのだろう。
もっとも、現実的にはロータリーエンジンは、その特徴を活かして、発電用エンジンとして利用されるという。いわゆるエンジンで発電、モーターで駆動するシリーズハイブリッド(レンジエクステンダーEV)専用エンジンとしての復活はすでにカウントダウン段階だ。
ロータリーエンジンの利点はコンパクトさと滑らかさ
なぜ、そうした使われ方をするのかといえば、ロータリーエンジンにはコンパクトという特徴があるからだ。通常の4サイクルレシプロエンジンの場合、吸気・圧縮・燃焼(膨張)・排気という4つの行程が同じシリンダー内で行なわれる。そのために必要な部品がバルブで、吸気時には吸気バルブを開き、圧縮・燃焼時にはバルブを完全に閉じておき、排気のときには排気バルブを開くというメカニズムが必要になる。
一方、ロータリーエンジン(海外ではヴァンケルエンジンとも呼ばれる)の場合、まゆ型をしたハウジングの中を三角系のローターが回転することで、4つのサイクルを文字通りに回していくという仕組みなっている。
ローターのある面(辺)に注目すると吸気ポートの開いている部分で混合気を吸い込み、それをハウジングの形状によって圧縮していき、スパークプラグで点火することで燃焼させる。そして排気ポートのある部分で押し出すという具合だ。
こうしたサイクルを偏心運動で行なっているという構造は、ピストンの往復運動によるレシプロエンジンより滑らかなフィーリングとなることは明らかだ。四輪で多く使われている2ローターエンジンが6気筒並みのスムースさと言われるのが、実際に乗ると想像以上に滑らかな回転フィールに驚くことだろう。
さらに、ロータリーエンジンは先ほど記した4つのサイクルを、3つの辺で同時に行なっているのも特徴。これはすなわち1つのローターが2~3気筒に相当するということであり、またカムシャフトやバルブが不要なことから小型化できる。小型で高出力が期待できる夢のエンジン、それがロータリーエンジンだったのだ。
1960年代から各社がロータリー搭載バイクに着手した背景
「小型で高出力」への期待から、1960年代にはメーカー各社がロータリーエンジンの開発に着手した。日本でいえばトヨタ、日産、ヤマハ、カワサキ、ホンダなどが試作段階までは持って行ったが、実際に市販・量産にこぎつけたのは四輪ではマツダ、二輪ではスズキだけだった。
前述したようにマツダはハウジングを2つ並べた2ローターエンジンを市販車に搭載したが、スズキのロータリーエンジン搭載モデル「RE-5」はシングルローターとなっていた。その排気量である497ccは、自動車税で用いるロータリー係数1.5をかけると当時の国内上限に収まるように設計されたという噂もあるが、結果的には国内での正規販売はされなかった。
バイクにロータリーエンジンを採用する利点と欠点
そんなRE-5の生産期間は1974年~1976年。夢のエンジンといわれたロータリーとしては非常に短いが、その姿を見れば、ロータリーエンジンのメリット・デメリットが一目で感じられるはずだ。
エンジン自体が非常にコンパクトなのは見ての通りだが、それに対してラジエターが巨大なことに気付くだろう。そう、ロータリーエンジンは発熱が多く、冷却に課題を抱えていた。さらに排気熱も高く、マフラーに遮熱の工夫がされているのも見て取れる。
発熱が多いということは熱効率が悪いという風に理解できる。つまり、ロータリーエンジンはコンパクトで高出力は実現できるが、一方で燃費性能にネガを抱えていたのだ。
そうした欠点を解決する術はなかったわけではないが、ちょうどロータリーエンジンが世に出始めた1970年代にオイルショック(石油危機)が起きたことで、燃費性能に弱点のあるロータリーエンジンを進化させる猶予がなくなってしまい、スズキのバイクラインアップからロータリーエンジンは消滅したというのが実情だ。
現代のロータリーエンジン採用バイク「CR700W」は1300万円以上の超高額車!!
小型・高出力という特性をモーターサイクルに特化して地道に開発を続けたメーカーもある。それがイギリスのノートンで、当初は空冷2ローターエンジン搭載モデルを市販。その後、水冷2ローターエンジンを10年以上も生産していた。
そうしたノートン・ロータリーエンジンの流れを汲んでいるのが、クライトンモーターサイクル社だ。同社が2021年10月に発表したロータリーエンジン搭載モデル「CR700W」は、排気量690ccの2ローターエンジンを搭載。価格は8万5000ポンド(約1300万円)で25台限定生産という希少かつ高価なモーターサイクルとなっている。
同社の発表によれば、2ローターエンジンの質量はわずか24kgで、最高出力は220馬力。6速トランスミッションと合わせたパワーユニットとしても46kgと軽量に仕上がっている。まさにロータリーエンジンならではの小型・高出力を実現したのがCR700Wというわけだ。
わずか25台の限定車をもって、ロータリーエンジンが二輪に増えていくといは思えないが、1960年代にエンジニアたちが夢見たエンジンは、まだまだ可能性を秘めているのかもしれない。
レポート●山本晋也 写真●八重洲出版『別冊モーターサイクリスト402号』(小見哲彦)/マツダ/日産/クライトンモーターサイクル
編集●モーサイ編集部・中牟田歩実