CB1000SFとZEPHYR、XJR
ブームの反動がもたらしたもの
激しい開発競争に明け暮れた80年代も終わりに近づいたあたりから、メーカー各社は「レプリカの次に来るもの」を模索。そのカギはどうやら気負わずに乗れるバイクにあるらしいと予測し、400ccや250ccクラスを中心にアップハンドルのノンカウル車を投入し始めた。そんな中、ホンダも最高出力59馬力を発生するCBR400RR系のカムギヤトレーンエンジンを57馬力にデチューンして鋼管ダイヤモンドフレームに搭載したCB-1を89年に投入。それより少し遅れて、カワサキはゼファーを発売。
当時高まりつつあったZ1をはじめとする旧車ブームに乗る形で投入されたモデルで、空冷2バルブエンジンに鋼管ダブルクレードルフレーム、リヤ2本ショックと時代に逆行する車体構成。最高出力も46馬力と当時の250ccスポーツと大差ないスペックだったが、これがレプリカブームに乗り遅れて劣勢を強いられていた同社の起死回生となる大ヒット作となる。この勢いを受けて90年にはゼファー750、92年にゼファー1100が投入されるが、これも絶大な支持を受ける。
CBシリーズの復権
これによりユーザーがトラディショナルな姿のモデルを求めていることが明白となり、ホンダは「プロジェクト BIG-1」と呼ばれるコンセプトを立ち上げる。その内容は、水冷4ストDOHC並列4気筒エンジンで体躯はセクシー&ワイルド、走る者の心を魅了する感動性能を有すること、といったもので、それらを具現化して91年の東京モーターショーでCB1000SF(スーパーフォア)をコンセプトモデルとして出展。そこで予想以上の大反響となったのだ。その後、同コンセプトに基づきCB400SFも製作されて92年4月に発売。同年11月からCB1000SFも市販化された。
CB1000SFはスポーツツアラーのCBR1000F系の水冷エンジンを採用。あえて空冷風のフィンを付けずに水冷特有の力強さを強調しつつ、前後18インチホイールや23ℓ容量の燃料タンクの採用などで、見る者を圧倒する威風堂々とした車体の存在感やステイタス性、そして新しい時代のスタンダードバイクとしてのあるべき姿を提唱。
折からのビッグバイク需要の高まりに応える形で人気を博し、当時は存在感が希薄となりつつあったCBの名を改めて世に知らしめるヒット作となった。
「プロジェクトBIG-1」に基づいた水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒エンジンを、ダブルクレードルフレームに搭載するビッグネイキッド。水冷エンジンの力強い造形美を生かしたデザインで人気モデルとなった
IMPRESSION
見る者を圧倒する存在感
偉容に圧倒されそうになりながらまたがる。思わず声を出した。「で……デカイ」。エンジンを始動し響いたサウンドは普通のマルチの音でしかなかったが、軽くひねるだけで400のように回転計の針が鋭く振り上がる。ハンドリングは軽快だし、Uターンも普通にできる。難しくはないが、微速でタイトに曲がるときなどの安定性は最高ではなく、フロントから倒れ込む兆候がある。特別なテクがいるなんてことはないけど、限定解除していきなり乗るには少し手強いだろうな、という感じではある。(モーターサイクリスト93年1月号)
発売前の92年鈴鹿8耐ではCB1000SFのプロトタイプがマーシャルカーとして登場。その奥には楕円ピストン8バルブのV4エンジンを採用、公道走行可能なモデルとしてこの年発売されたNRの姿が見える
RIVAL
シリーズの最大排気量車。海外向けツアラー「ボイジャー」の水冷エンジンを空冷化、ボアダウンして1062ccとしたDOHC2バルブ並列4気筒エンジンを搭載。ゼファー750同様、96年には前後ホイールをスポーク仕様とした派生モデルRSが登場した
IMPRESSION
時代を築いた空冷ビッグネイキッド
セルボタンを押すとドゥオンと低周波の排気音が響いた。特別大きくはないけれど、大型の肉食獣が吠えるような音色で凄みがある。ギヤを1速に入れアイドリングからちょっと回転を上げ、静かにクラッチをつなぐ。スルリとスムーズに発進。ただし2000回転以下ではいちおう走れるというだけのこと。4000回転前後でスーッとパワーが上昇し、普段はここまで回せば十分だが、圧倒されるほどのパンチは沸いてこない。全開にして5500回転に達したところからトルクがアップ。唐突な変化ではないけれど、明らかにここから性格が違う。(モーターサイクリスト92年4月号)
93年2月号での比較テストで、CB1000スーパーフォア、ゼファー1100のほかにヤマハVMAX1200を加えての試乗。リッタークラスでアメリカンを除いたノンカウルの国内モデルといえば、まだこの3機種程度だった
ネイキッドブームが生んだ新たなCB
CBX750Fのエンジンをベースに、低~中回転域のトルクを重視した747cc空冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒エンジンを搭載。ホンダにとって最後の空冷ナナハンだ。扱いやすさに優れ、教習車として多くの教習所に採用された
IMPRESSION
特筆すべき軽快性と安定性
ひと言で言えば非常に素直、スムーズ。もうひとつすごいのは軽快な身のこなしで、S字コーナーでの左右への切り返しもスパスパと軽快に決まる。最高出力はCBX750Fの77馬力から73馬力(輸出仕様の数値。国内向けは75馬力)に下げられたが、これはアクセルに対するリニアリティ向上が目的という。ゼファー750と比べるとエンジンがスムーズかつパワフル、コーナリングの安定感も上。つまり性能面ではCB750の勝ちという印象だが、バイクは性能だけではない。そのバイクがどれだけ自分を楽しませてくれるかという点が肝心なのだ。(モーターサイクリスト92年2月号)
市販車最速を標ぼうした1台
CBR1000Fの後継機。新設計1137ccエンジンは最高出力164馬力で、空力特性を追求したエアロフォルムと相まって300km/hに迫る最高速度を実現。99年型でFI化、01年型で最高出力を152馬力に落としスクリーンを30mm高くする変更を受け、07年型まで存続した。写真左は当時のライバル車となるカワサキZZR1100
92年5月号における、CB750とゼファー750/1100の比較試乗。同時にVFR400RやGSX-R400R、ZXR400といったレプリカの比較試乗も行われており、レプリカブームの余熱いまだ冷めやらぬといった時期である
RIVAL
FJ1200の空冷DOHC4バルブエンジンをベースに吸排気系と外観を見直し、ダブルクレードルフレームに搭載したビッグネイキッド。リヤにオーリンズ製サスペンションを標準装備し、さらに翌年はブレンボ製ブレーキキャリパーを採用した
IMPRESSION
強力な加速力と素直なハンドリングが魅力
空冷1200ccエンジンがデデーンと居座るさまはやっぱりすごい。ただ「とてつもなくデカいバイクだぞ」といったアピールが少ないのも事実。問答無用でシロートを威圧しちゃうような迫力はCB1000SFほどじゃない。スロットルをグイッとひねり込んでタコメーターの針が3000回転に差し掛かったところから、ドゥワッと猛烈なダッシュが始まる。こんな低回転から、こんなに力強い加速をするバイクなんてめったにない――ハンドリングも素直かつ軽快で、ビッグバイクにありがちな、強引にネジ伏せて度胸で……というのとはまったく違うのだ。(モーターサイクリスト94年4月号)
Z2イメージでまとめられたナナハン
レプリカブームに楔を打つかのように前年に登場したゼファーのナナハン版。エンジンはザッパー系GPZ750Fがベースで、タンクやカムカバー形状に丸みを持たせてZ2(750RS)をイメージさせる外観としている。ネイキッドブームに拍車をかけた名車だ
鋭い走りが特徴のビッグネイキッド
ダブルクレードルフレームに搭載される油冷エンジンはGSX-R1100がベースで、ミドルクラス並の1435mmというホイールベースによる鋭い旋回性が特徴。砲弾型3連メーターやステンレス製マフラーなど質感にもこだわった。翌年ハーフカウルを装着したGSF1200Sを追加
ローソンレプリカの復刻版
ビキニカウルを装備した角目ヘッドライトやスタビライザー付きスイングアームが、かつてのZ1000Rローソンレプリカを彷彿させるビッグネイキッド。エンジンはZZR1100と同系の水冷4スト1052cc並列4気筒で、コンパクトな車格で扱いやすい特性に仕上げられている
(1)ホンダCB750登場前夜
(2)大型4気筒の時代到来
(3)スーパースポーツの先駆け
(4)高出力化への新たな潮流
(5)ビッグネイキッドの幕開け
(6)リッターオーバー時代へ