ヒストリー

「ZZR250、ニンジャ250R、そしてニンジャ250へ」カワサキ250並列2気筒の系譜【1990〜2020年代編】

ニンジャ250R カワサキ

後年は250ツアラー、250スーパースポーツと独自の存在感を発揮

1985年登場のロードスポーツモデル GPZ250R用として新開発された250cc水冷DOHC4バルブ並列2気筒。これを原型とするエンジンが2010年代までカワサキ製250ccロードスポーツの主力エンジンたり、今なおアドベンチャーモデルのヴェルシス-X250用として現役であるのをご存知だろうか。

30年以上の時が流れる間、90年代以降は排出ガス規制が厳しくなっていき、バイクのトレンドも大きく変化していった。
そうしたなかで、カワサキ製250cc水冷DOHC4バルブ並列2気筒はどのようなモデルに搭載され、各車はどのようなキャラクターだったのか。
当記事では90年代以降のロードスポーツモデルを中心に解説をしていきたい。

カワサキ初の250cc水冷並列2気筒を搭載し、1985年に登場したGPZ250R。
GPZ250R エンジン カワサキ
GPZ250Rのエンジン。水冷DOHC4バルブの並列2気筒は180度クランクを採用。

GPZ250R エンジン カワサキ
ボア・ストロークは62.0×41.2mmで、最高出力43ps、最大トルク2.4kgmという性能を発揮した。

ZZR250(1990年〜) ZZRシリーズのスポーツツアラーらしさを継承

1990年に入ると、カワサキはスポーツツアラーのイメージを統一していく。
それまでの「GPX」シリーズに代わり、国内外向け含め「ZZR」と名付けた4気筒モデルを1100、600、400と送り出し(一部仕向地用に500も存在)、最小排気量版としては並列2気筒の250をラインアップしたのだ。

徐々にレーサーレプリカモデルを中心とした性能競争もかげりを見せ始めていたが、250ccクラスの4スト車では水冷並列4気筒、2スト車では水冷V型2気筒が当然のように45psの性能で肩を並べていた時代に、ZZR250は一歩引き「250ccのツアラー」という立ち位置だった。

エンジンはGPZ250R→GPX250Rの系譜を受け継ぐ水冷DOHC4バルブ並列2気筒ながら、騒音規制に対応しつつ中低速域の扱いやすさを重視した特性として、最高出力は40psとされた。この「小さなZZR」は、カワサキ250cc並列2気筒搭載車の中で、スタイルも基本構成もそのままに最も長く続いたモデルとなった。

ただし、1999年に強化された排出ガス規制により、ZZR250および同エンジンは一度は生産中止となる。この規制では、国内各メーカーの各排気量帯、様々なモデルがラインアップ落ちを余儀なくされたのだ。
だが、ツーリングにも向く250ccモデルへの要望は根強く、カワサキは2002年にZZR250を復活。この機に生産をタイへと移管して生産コストの抑制も図り、規制対応となった水冷並列2気筒は35ps/1万2000rpm、2.2kgm/9500rpmへとスペックダウンしたものの、扱いやすい250ccツアラーとしての評価は変わらず2007年まで継続販売されたのだ。

「250ccで何キロ出るか」「ちょっとチューンするだけで軽く45ps規制を超える」と若いライダーたちが盛り上がった時代に一区切りついた後、「持て余さず、引き出しやすい性能で十分」というニーズも増えたことで、高性能の追求から一歩引いたZZR250は、結果的にロングセラーとなったのかもしれない。

カワサキ ZZR250(1990)主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:62.0mm×41.2mm 総排気量:248cc 最高出力:40ps/1万2500rpm 最大トルク:2.4kgm/1万rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2050 全幅:700 全高:1125 ホイールベース:1405 シート高:760(各mm) タイヤサイズ:F100/80-17 R140/70-17 車両重量:146kg(乾燥) 燃料タンク容量:17L
[当時価格]
48万9000円

ZZRシリーズの最小排気量版として1990年に登場したZZR250。タイ生産版の後期型も含め、カワサキ水冷250cc並列2気筒搭載車としては17年にわたって販売された長寿モデル。
最終型となった2006年モデルZZR250。タイ生産となった2002年モデルからは、最高出力35ps/1万2000rpm、最大トルク2.2kgm/9500rpmとなり、ギヤ比も改められた。

ニンジャ250R(2008年〜) 孤高の大ヒット「250スーパースポーツという市場を開拓」

排出ガス規制が強化されるたびに、ラインアップが寂しくなる国内バイク市場だったが、その煽りをさらに厳しく受けたのが2008年だった。これにより、ただでさえ減少傾向だった2スト車は原付に至るまで軒並み廃盤となり、さらに未燃焼ガスのコントロールがどうしても難しくなるキャブレター車も存続が困難となった。

しかし、連綿と続いてきたカワサキ250cc水冷並列2気筒はこの規制も乗り越え、2008年登場のニンジャ250Rのエンジンとして活用される。
規制対応でのFI(フューエルインジェクション)化に加え、性能は31ps/1万1000rpm、2.1kgm/8500rpmとなり、最終型のZZR250よりダウンしたが、エッジの効いたカウリング、鋭く跳ね上がったテールデザイン、セパレートシートなど、スポーティかつ現代的なデザインへと一変。
ZZR250=スポーツツアラーからスーパースポーツの雰囲気を持ったモデルへと生まれ変わったのである。

国内他メーカーが、軒並み250ccのロードスポーツモデルから撤退するなか、2008年に登場したニンジャ250R。エンジンはFI化により排出ガス規制をクリア。

往年の「45馬力250スポーツ」を知るベテランライダーからは性能数値面の物足りなさを指摘する声もあったが、実際に走らせてみれば、そこそこのスポーツライディングから高速移動を含むツーリングまで楽しめる万能スポーツ車の資質を持っていた。

ちなみに、当時の国内メーカーの250ccモデルを見ると、スクーター以外はクルーザー、FI化されつつ20ps以下の出力に絞られたクラシックデザインの空冷単気筒モデルがちらほらという程度。
さらに、フルカウルのスポーツモデルはニンジャ250R以外皆無となっており、勢い存在感が引き立つ状況となった。先代にあたるZZR250後期型と同様に生産はタイで行われ、新車価格は49万8000円と価格が抑えられたこともあり、ニンジャ250Rは若いライダーからベテランライダーまで幅広い層の人気を獲得。
一時は納車待ちも発生するほどの好セールスも記録した。

またこの頃は東南アジア市場でも販売モデルの排気量上限が上がって、250ccが現地の上級モデルとして需要が活況を呈し始めた時期でもあり、世界累計20万台を超える大ヒットモデルとして躍進。
ニンジャ250Rは日本市場のみを見据えたかつての高性能250ccロードスポーツと出自やキャラクターこそ違うものの、21世紀を代表するカワサキ車の1台といっても過言ではないだろう。

「Ninja」シリーズとなるにあたり、スーパースポーツを思わせるカウルデザインを採用。十分なウインドプロテクション性も与えられている。

テールカウルもシャープなデザイン。マフラーは左右2本出しだったZZR250から、ニンジャ250Rでは右側1本出しに。

出力は31psと抑えられたが、60ミクロンの微粒化インジェクター、ZX-6R同様のデュアルスロットルバルブの採用などで、全域でスムーズな特性が追求されている。
フロントブレーキは290mmのシングルディスク+2ポッドキャリパーという組み合わせ。正立式のフロントフォークはインナーチューブ径37mm。

メーターは中央に速度計、左に回転計、右に水温計という基本を押さえたオーソドックスなレイアウト。レッドゾーンは1万3000回転から。
シートもスーパースポーツらしい前後セパレート式。フロントカウルには「Ninja」のロゴ、テールカウルには「250R」のロゴが入る。

ニンジャ250R(2008)主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:62.0mm×41.2mm 総排気量:248cc 最高出力:31ps/1万1000rpm 最大トルク:2.1kgm/8500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2085 全幅:715 全高:1110 ホイールベース:1400 シート高:775(各mm) タイヤサイズ:F110/70-17 R130/70-17 車両重量:151kg(乾燥) 燃料タンク容量:17L
[当時価格]
49万8000円

ニンジャ250(2013年〜) 機能面を熟成、デザインはよりスーパースポーツ的に

2008年の登場以来、世界的に高い人気を獲得したニンジャ250Rだが、そこに需要があるならばライバルメーカーは当然参入する。
東南アジアでの人気もあり、ホンダはタイ生産のCBR250R(水冷DOHC4バルブ単気筒)を2011年から投入、スズキは中国生産のGSR250(水冷OHC2バルブ並列2気筒)を2012年から投入、ヤマハは2014年からインドネシア生産のYZF-R25(水冷DOHC4バルブ並列2気筒)を投入といった具合だ。

一方、250ccスポーツの新たな火付け役となったカワサキ ニンジャ250Rは2013年にモデルチェンジを実施する。

カワサキ以外の国内3メーカーも250ccスポーツモデルに着手し始めたのと前後し、2013年モデルで「ニンジャ250」へとモデルチェンジ。エンジンの熟成、フレームの改良が行われた。

車名から「R」が取れて「ニンジャ250」となったが、1000ccスーパースポーツ・ニンジャZX-10Rの流れを汲むデザインとなり、よりスポーティさを強調。
エンジンは従来型ニンジャ250Rベースながら、シリンダーを軽量で放熱性の高いアルミダイキャスト製として、スリーブレスのメッキシリンダー化。ほかにピストンの軽量化や一部硬質アルマイトコーティング処理、FIサブスロットルバルブの大径化、エキパイ長のロング化で低中速域のトルクをアップ。
性能は31ps/1万1000rpm、2.1kgm/8500rpmとニンジャ250Rと変わらないものの、より厳しい規制をクリアしつつ、十分な性能が確保されていた。

さらに特徴的な改良点が熱風対策。
東南アジアをメイン市場とする同車ならではのもので、停車中にエンジンから上がる熱風を、下側後方に整流するカウル構造となっているのだ。
また、フレームも海外向けに300ccモデルが用意されるために見直され、スチール製(ダイヤモンド型)からハイテンスチールへ変更して剛性アップ。ほかにも剛性メンバーとするためリジッドマウントだったエンジンの一部を、ラバーマウント化して振動を低減するなどの改良も行われている。

2015年モデルからはスリッパークラッチが搭載されるが、大排気量上級モデル同様の機能を取り入れていった点も、東南アジア市場においては高級車となる250ccスポーツモデルの位置付けを物語る進化だろう。

こうしたベースエンジンを生かしつつ熟成を続けるという手法、カワサキでは他にも例が多いが、2018年にニンジャ250が新エンジンを搭載してフルモデルチェンジするまで、ロードスポーツ用としては32年にわたり活躍してきたことになる。

ニンジャ250のエンジン。性能数値はニンジャ250Rと変わらないが、バランサーの採用、エンジンマウントの一部ラバーマウント化などで振動を低減、快適性の向上も図られている。
ニンジャ250では、アルミダイキャスト製のスリーブレスメッキシリンダーを採用。
ピストンはニンジャ250Rよりも軽量化が行われたほか、硬質アルマイト処理が施され耐久性の向上も図られている。
メーターはよりスポーティなデザインに一新。中央にアナログ式回転計、右下に液晶のデジタル式速度計というレイアウトで、液晶には燃料計、時計も表示され、実用性も高められている。

ニンジャ250(2013)主要諸元

写真はグラフィックが描かれる「スペシャルエディション」。「スペシャルエディション」にはABS仕様も設定された。

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:62.0mm×41.2mm 総排気量:248cc 最高出力:31ps/1万1000rpm 最大トルク:2.1kgm/8500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2020 全幅:715 全高:1110 ホイールベース:1410 シート高:785(各mm) タイヤサイズ:F110/70-17 R140/70-17 車両重量:172kg 燃料タンク容量:17L
[当時価格]
53万8000円(スタンダード)/55万3000円(スペシャルエディション)/60万3000円(ABSスペシャルエディション)

ニンジャ250は新開発エンジンとなるが、ヴェルシス-X250用として36年目に!

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