ヒストリー

「Z、GPz、GPZ、GPX」名だたるシリーズの250版を支えたカワサキ並列2気筒の系譜【70〜80年代編】

GPZ250R カワサキ

空冷4ストのZ1やWシリーズ、2ストなら3気筒のマッハシリーズ、カワサキ往年の名車というとこれら3モデルが代表されがちだが、大型自動二輪免許の取得も困難だった時代、多くのライダーに実際愛用されていたのは軽二輪……いわゆる250クラスであった。

なかでも、カワサキは現在に至るまで250クラスに並列2気筒を積極的に投入してきたメーカーで、エンジン自体も長く活用されるケースが多いのが特徴といえる。当記事ではまず、80年代のカワサキ250cc並列2気筒モデルの系譜を紹介したい。

現在もラインアップされるカワサキ250cc並列2気筒ロードスポーツ

カワサキ Ninja250(写真は2022年モデル)。37馬力を発揮する水冷DOHC4バルブの並列2気筒エンジンを搭載。価格は65万4000円。

カワサキ Z250(写真は2022年モデル)。エンジンやフレームなどをニンジャ250と共用するネイキッドモデル。価格は61万500円。


カワサキ Z250FT(1979年〜)「エンジン、車体とも250cc専用設計の駿馬」

1979年1月発売のZ250FT。250cc専用設計で高回転まで回るエンジン、軽量な車体による俊足ぶりで高い評価を得た。登場時の価格は31万8000円で、1982年まで販売された。

125cc超、250cc以下の軽二輪は、一般道での制限速度は上位クラスの自動二輪と一緒で(1992年以前は「中速車」という扱いだった)、高速道路にも乗れる。しかも車検が不要のため、手軽でコスト面の負担が少ないのもメリットだ。また、ユーザーを取り込むための入門車という重要な役割も持っている。

そのため、1960年代から現在まで各メーカーともさまざまな250ccモデルをラインアップしてきたが、かつては上位機種の400ccモデルがあってその弟分として250クラスも揃える……という成り立ちが多かった。
その場合、400ccを前提とした車体に250ccエンジンが搭載されるため、自然、250ccモデルは「重い車体にローパワーなエンジン」という組み合わせになる。

1970年代の例で言えば、ホンダはホークII CB400T(空冷4スト並列2気筒)に対してCB250Tを、ヤマハはGX400(空冷4スト2気筒)に対してGX250、カワサキはKH400(空冷2スト3気筒)に対してKH250といった具合だ。

例外はスズキで、250cc専用設計のRG250、RG250E(空冷2スト2気筒、標準はスポーク、「E」はキャストホイール仕様)を1978年に投入。250ccモデルは2スト、4ストとも20ps台が主流だった当時に最高出力30psという性能、乾燥137kgという軽量な車重で、スプリンターぶりが好評だった(当時の250ccロードスポーツの車重は160〜180kg台が主流)。
コスト面を含め生産効率はよくないものの、専用設計なら軽二輪でも魅力が打ち出せることをスズキ RG250系は示したのだ。

そして1979年、カワサキは250クラスに新型車を投入。同社初の4スト250cc並列2気筒(空冷OHC2バルブ)を開発し、車体も専用としたZ250FTである。エンジンは最高出力27ps/1万rpm、最大トルク2.1kgm/8500rpmのスペックで、乾燥重量は153kgと軽量な4ストモデルに仕立てられた。180度位相のクランクで1万rpmまでパワフルに回るエンジンと軽快な車体で2ストモデルに匹敵する加速力を発揮し、ヒットモデルとなる。
また、Z1000MkII、Z750FX(I)、Z400FXなどを踏襲した直線基調の角型Zフォルムが末弟のZ250FTにも採用され、「新時代のカワサキ」という風も感じさせた。

かくして、カワサキの4スト250cc並列2気筒はスタートしたのだが、同社は以降も250cc並列2気筒搭載モデルをラインアップし続け、21世紀の今に至っている。
時代に合わせ、空冷から水冷、キャブレターからFIへと進化しているものの、実はこの250cc並列2気筒は、Z1、W、マッハといったカワサキ名車の代表格よりはるかに長い期間(そして販売台数としても)カワサキを支えてきたと言える。

カワサキ Z250FT(1979)主要諸元

[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル並列2気筒OHC2バルブ ボア・ストローク:55.0mm×52.4mm 総排気量:248cc 最高出力:27ps/1万rpm 最大トルク:2.1kgm/8500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2020 全幅:760 全高:1085 ホイールベース:1340 シート高:805(各mm) タイヤサイズ:F3.00-18 R3.50-18 車両重量:153kg(乾燥) 燃料タンク容量:13.6L
[当時価格]
31万8000円

カワサキ GPz250(1983年〜)「空冷250を引き継ぎ、ベルトドライブと組み合わせる」

27馬力→33馬力までチューンアップしたZ250FTベースの空冷OHC2気筒を搭載し、1983年3月に発売されたGPz250。リヤにはユニトラック・サスペンションを採用。当時価格は37万円。

専用設計のZ250FTは確かにヒットしたものの、苛烈な性能競争が繰り広げられていた当時、存在感を長く保つことはできなかった。
1980年にヤマハ RZ250(水冷2スト2気筒)が、1982年にホンダVT250F(水冷4ストV型2気筒)が登場すると、250クラスの最高出力は35psへ到達──。

ライバル勢に対抗すべく、カワサキはZ250FTの空冷並列2気筒のバルブ挟み角などシリンダーヘッド周りを見直して進化させ、リヤにボトムリンク式モノショック「ユニトラック・サスペンション」を持つ新たな車体に搭載したGPz250を1983年に登場させる。

同車の大きな特徴の一つが、ベルトでの後輪駆動だ。カタログでのサブネームに「ベルトドライブ・スーパークオーター」とうたわれているが、チェーンの耐久性がまだ現在のシールチェーンほど優秀でなく発展途上だった時期、メンテナンスフリー化もアピールして、国内メーカーは非チェーン駆動を模索していた。
特に1980年代前半、カワサキが熱心だったのが中型排気量に採用したベルトドライブだ。

GPz1100やGPz750、GPz400と同系統のデザインが与えられたGPz250はシリーズ最小排気量モデルという位置付けだったが、上位排気量モデルと異なり、バルブ駆動はDOHCでなくOHC。
Z250FTよりも性能を上げ、最高出力33ps/1万500rpm、最大トルク2.3kgm/9500rpmまで絞り出したものの、ライバルメーカーの高性能モデル群には一歩水を開けられた格好だった。
結果的に同車も国内市場で約2年という短いモデルライフに終わるものの、急激に性能進化が行われたこの時代、高性能車=水冷エンジンという流れには抗いようがなかった。

カワサキ GPz250(1983)主要諸元

[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル並列2気筒OHC2バルブ ボア・ストローク:55.0mm×52.4mm 総排気量:248cc 最高出力:33ps/1万500rpm 最大トルク:2.3kgm/9500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2060 全幅:745 全高:1195 ホイールベース:1365 シート高:745(各mm) タイヤサイズ:F90/90-18 R110/90-18 車両重量:146kg(乾燥) 燃料タンク容量:17L
[当時価格]
37万円

カワサキ GPZ250R(1985年〜)「長寿エンジンとなった水冷DOHC並列2気筒のルーツ」

カワサキ初の250cc水冷DOHC並列2気筒が搭載されたGPZ250Rだが、「鳩サブレ」などと言われ独特のデザインは広く受け入れられなかった。当時価格は45万9000円。

それ以降、カワサキは他の国内メーカーと同様、250クラスのロードスポーツモデルに水冷化した2スト、4ストの高性能モデルを用意していく。
2ストはレーサーレプリカ直系をうたう前後直列2気筒=タンデムツインのKR250が1984年に登場。一方、4ストにも高性能モデルを用意した。1985年登場のGPZ250Rである。

新開発の水冷DOHC並列2気筒は、ボア・ストローク62×41.2mmの248ccで、Z250FT/GPz250の空冷ツインと同じく180度位相のクランクを採用。最高出力43psの数値は、当時の自主規制値45psに迫るものだったが、性能競争は2ストに任せ、4ストのGPZ250Rにカワサキは一味違ったテイストを盛り込みたかったようだ。

同車のキャッチフレーズは「ファッショナブル・スーパークォーター」。
上位排気量のGPZ系とも異なる形状のカウルをまとい、異色のフォルムのシート、跳ね上がったテールカウルへとつながるデザインは実に独創的だったが、結果的には不評……。GPZの名を冠しつつも、共通性のない同車のスタイルは受け入れられなかった。
側面シルエットからの連想で「鳩サブレ」とも揶揄された同車は結局2年足らずで市場から消えるものの、GPZ250Rで新開発された水冷並列2気筒は2010年代のニンジャ250/Z250まで、約30年の長きに亘り熟成を重ねながら存続することとなる。

GPZ250R用に新開発された水冷DOHC4バルブ並列2気筒。
カタログでは「高回転域をキープしなければ力強さを手にできないマルチとは違い(中略)カワサキは『クォーターにおいて、最も優れたトータルパフォーマンスを実現できるパワーユニットはツインだ!』という確信を抱き、ニューエンジンの開発に取り組みました」と、中低速域のトルクと高回転域の伸びを両立した特性をアピールしている。

GPZ250Rのデザインスケッチ。開発時のコンセプトは「次世代の新感覚のスポーツ車」で、洗練された都会的なデザインが追求された。
4輪車のように、スクエアなパネルにまとめられたGPZ250Rのメーターまわり。左に速度計、中央に水温計とインジケーター類、右に回転計というレイアウト。
フレームは専用設計のスチール製ダイヤモンドタイプ。ホイールは前後16インチで、中空オーバル断面ホイールであるのもウリのひとつだった。

カワサキ GPZ250R(1985)主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:62.0mm×41.2mm 総排気量:248cc 最高出力:43ps/1万3000rpm 最大トルク:2.4kgm/1万1000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2005 全幅:695 全高:1075 ホイールベース:1400 シート高:745(各mm) タイヤサイズ:F100/80-16 R120/80-16 車両重量:138kg(乾燥) 燃料タンク容量:12L
[当時価格]
45万9000円

カワサキ GPX250R(1987年〜)「GPZの次世代を目指した異色のシリーズ」

カワサキがトータルバランスに優れたマシンの意をこめて名付けた「X」。GPXシリーズの最小排気量版として1987年に登場したGPX250R。当時価格は47万9000円。

レーサーレプリカブームにも牽引され、250クラスが着実に売れ続けていた1980年代後半。しかし、カワサキは他メーカーに比べると同クラスでの販売戦略が揺れ動く時期だったように見える。

この時期、世界GPでのワークス活動から撤退中だったこともあり、カワサキは「レーサー直系」を押し出しにくい。そこで、公道でのトータルパフォーマンスを目指し水冷化したGPZシリーズを展開して一定の成功を収めたわけだが、GPZとは別の路線を模索して登場したのがGPXシリーズだ。
尖った性能よりも快適性や乗りやすさを重視し、「Z」に対し、「X」はトータルバランスの良さを意図して車名に付加されたという。

国内ではGPX750R、GPX400Rが用意され、シリーズ最小排気量としてGPX250Rが1987年に登場。だが、上位排気量のGPXシリーズはいまひとつ盛り上がらなかった。GPZ系よりもコンパクト化されていたのがウリではあったが、重厚長大イメージのカワサキ車を支持してきた従来ファンからは支持されず、結果的にシリーズは短命に終わったのだ。

ただし、GPXシリーズの中でもGPX250Rは唯一販売面で健闘した。
上位排気量モデルと共通イメージのデザインで、GPZ250Rからさらに高回転高出力へと強化されたエンジンは、最高出力45ps/13000rpm、最大トルク2.5kgm/11000rpmを発揮。2ストレプリカに肩を並べるスペックだが、あくまで立ち位置はストリートからツーリングまでを意識したパッケージだったことは、同車のキャッチフレーズ「バランスド・クォーター」にも現れている。

短命に終わったGPXシリーズだが、GPX250Rは登場翌年の1988年にGPX250R-IIにバージョンアップ。フロントダブルディスクブレーキ化に加え、アンダーカウルのロゴは「GPX」ではなく「Ninja」の文字とし、排気量を示す250の数字も外された。GPXシリーズは、このGPX250R-IIの人気が最も高かったなどとも言われるが、勢いは長く続かなかった。

結局カワサキはツーリングユースを含めて公道でベストな性能を誇るモデル群を「ZZR」でシリーズ化していく方向へ舵を切っていく。
そしてZZRの250ccモデルにも、GPZ250R用として開発され、GPX250Rでブラッシュアップされた水冷DOHC並列2気筒エンジンは継続されていくのである。

250cc自主規制値上限の45馬力まで出力を高められたエンジン。フレームはスチール製のダイヤモンドタイプで、エンジンも剛性メンバーとして活用する。
GPX250Rのメーターまわり。左から速度計、回転計、水温計という3連メーター。レッドゾーンは1万4000回転から。

カワサキ GPX250R(1987)主要諸元

[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:62.0mm×41.2mm 総排気量:248cc 最高出力:45ps/1万3000rpm 最大トルク:2.5kgm/1万1000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2010 全幅:710 全高:1095 ホイールベース:1400 シート高:745(各mm) タイヤサイズ:F100/80-16 R120/80-16 車両重量:138kg(乾燥) 燃料タンク容量:18L
[当時価格]
47万9000円

レポート●阪本一史 写真●八重洲出版/カワサキ 編集●上野茂岐

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