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歴史あるクラシックバイクイベント「パイオニアラン」の苦悩と決断
世界中を苦しめている新型コロナウイルスの蔓延により、さまざまなイベントの休止や自粛が続いているのはご存知の通りだろう。
そうした社会情勢を踏まえ、新たな試みとともに開催されたクラシックバイクイベントがあった。そのイベントとは、関東のクラシックバイクイベントの中では長い歴史を重ねている「パイオニアラン」である。
「パイオニアラン」が始まった当初は、栃木県の大谷石採石場近くで行われており、大谷石の岩肌とクラシックバイクとのコントラストが独特の風景を作り出していたイベントだった。
昨今は、毎年5月末の日曜日に、東北自動車道・宇都宮ICから5分程にある「道の駅うつのみや ろまんちっく村」で開催されている。
しかし、2019年秋頃から新型コロナウイルスに対する感染対策が始まり、全国で多くのイベントが中止に──このパイオニアランも例に漏れず、直前で2020年の開催は中止の判断となってしまった。
2019年の開催には「メグロ」の大型機種(500ccクラス)が10台程も集まったことから、2020年は「メグロを100台集めよう!」と目標を立てて呼びかけていた最中だった。
そして2021年の開催はどうすべきか……と、主催者は苦悩した。
事前の準備は半年前から始めていたものの、いつでも中止の判断が下せるよう、2種類のスケジュールを並行して作成したと言う。しかし、イベントの告知をwebやポスター等で始めると、参加希望者からの問い合わせが例年を遥かに超える勢いで事務局に入り、「イベントを待ち望む人々」の多さを肌で感じたという。
もちろん、感染予防対策については開催地の「ろまんちっく村」からも細かな指針が出ており、それを踏まえた準備を進めていた。
しかし、開催2ヵ月前となった時点で「例年以上の来場者が予想される以上、感染予防対策が不十分になるのではないか?」との声が開催地やスタッフから大きくなり、その対応を検討する事となった。
中止案も出たというが、すでにwebやポスターなどで開催をPRしていたので、この時点での中止は当日の混乱を招く事が予想され見送られた。
しかし、何らかの対策を打たなければならない。議論の結果出された案が「無観客開催」というイベント方針だった。
とはいえ、ポスターやチラシはすでに配布済みで修正はできない。
できる限りの告知をすべくwebで「無観客開催」の案内を伝えるとともに、当日の会場でも来場者に「ご協力をお願いする」ことに努めた。
5月30日にイベントは無事開催、多数のメグロが集結!
イベント開催日の5月30日は午後に小雨の予報ながら午前中は快晴に恵まれた。
会場入り口には、事前に準備した入場者の検温とエントリー記載台の脇に、感染予防対策や「無観客」を呼びかける大きなパネルが掲げられた。
事前の呼びかけが功を奏し、多くの「見学者」は来場を見送ったようだが、驚いたのはその「参加者」の数だった。なんと早朝から10時過ぎまでの間、参加者の流れが途切れないほども続いたのだ。
後に集計した事務局によれば、およそ300人近い参加者がエントリーし、当初受付けで準備していた記念品のみならず、最後にはエントリー用紙までもが欠乏してしまったとのこと。
事前の問い合せでも、多くのバイクファンがイベントに飢えている事は感じていたが「これほどまでとは」とスタッフはもちろん、ろまんちっく村の担当者も驚くほどだった。
事前に心配されていた、初の試みとなる「無観客イベント」の呼びかけについてだが、当日それを知らずに来場した方には「お願い」をしたうえで、入場の判断を来場者に任せるということになったが、大きな混乱は起きなかったそうだ。
さて、参加車に目を移してみると、2020年に呼びかけをした「メグロを100台集めよう!」の言葉が功を奏し、かつてないほどのメグロが参加。
その数なんと約50台!
筆者も長年多くのイベントに足を運んでいるが、こんなに数多くのメグロを一堂に目にした記憶はない。
とはいえ、決してメグロだけが目立っていたわけではない。
「定番」とも言えるモンキーやスーパーカブをはじめ、ライラック、陸王、BMW、ベロセット、戦前のモトグッチなど、全体のエントリー台数が過去最高だったこともあって、幅が広くバラエティー豊かなクラシックバイクが集まったのだ。
中には、メーカー名も見たことのないような希少車が何台もあって、広い会場を歩いていても1台1台に目が離せなかった。
さらに、パイオニアランでは発動機の運転会も同時開催されているのだが、これがまた見ものだ。
発動機とは、主に戦前から昭和20年代を中心に農業用の動力として使われていた小型エンジンのこと。
構造がシンプルでタフな造りから、古いエンジンを個人で再生して楽しむ趣味人が一定数存在する。発動機の運転会も全国各地で行われているが、昨年来のコロナ騒動で多くの運転会が中止となっており、今回の50人規模の運転会は、久しぶりの光景だった。
中には遠く福井県からの参加者もいたようで、バイクのイベントもさることながら、発動機運転会の機会を待望しているマニアが多いのもうかがえた。
「2021年ほど参加者のエネルギーを感じた年はなかった」とパイオニアラン事務局スタッフ一同は語る。
また、これほど多くの参加者が来場したにもかかわらず、混乱やトラブルが発生しなかったと言うのも特筆すべき点だろう。
さて、来年、2022年の同時期にはコロナウイルス騒動はどうなっているのだろう?
2021年のパイオニアランを見た限りでは、感染予防対策を実施しながらバイクイベントを開催するという「イベントの新形態」を提示できていたと思う。
2021年パイオニアランに現れた希少車・名車たち(ほんの一部ですが)
ホンダ CB50(ドリーム50のエンジンを搭載)
CB50にドリーム50のエンジンを搭載したスペシャルマシン。イメージはCR110ストリートタイプだ。本物ならば台数も無く超高値だが、このようなスペシャルマシンは、オーナーの熱意と苦労が目に見えて、各部を眺めているだけで実に楽しい。
モトグッツィ スポーツ14
このモトグッツィ スポーツ14は今回複数台が集まったモトグッツィ戦前車の中の1台。普通なら、これだけでもイベントの華となる程の車両だ。
陸王 VFD
オリジナルペイントが残り堂々とした風格を放つ陸王VFD(1200)。このような国産古典車がこのパイオニアランの真骨頂である。
金剛
国産車の歴史でも希少車中の希少車、金剛。
エンジンは定置型発動機に近いものを搭載し、後輪軸横にはウインチやプーリーを取り付けて動力車としても利用するという「究極の実用車」だった。
モトグッツィ アストーレ500
ファッションセンスも抜群のオーナーが駆るのは、モトグッツィ アストーレ500(1949)。オーナーによれば、日常的に高速道路も巡行出来る程のコンディションだという。
メグロ J8アーガス
一見メグロのS8(250)に見えるが、これはその兄弟機種のJ8 アーガス。250クラスのS8に比べて40cc拡大(248→288cc)されたエンジンを搭載し出力向上を図ったモデルである。
メグロ Z6
磨き込まれたオリジナルペイントが迫力のメグロZ6(500)。
500ccのメグロは、歴代メグロの中でも生産台数が少なく、このZ6(1955)はその中でも極めてまれな現存車だ。
メグロ Z7スタミナ
メグロの500と言えばこのZ7 スタミナが知名度も高く、台数も多い。
この美しくレストアされたカラーは当時のオプション色で、極少数が生産された。
メグロ YAアーガス
これがメグロ?と思わず見入ってしまう希少車、1959年のメグロYA アーガス(350)。
OHCエンジンを積み当時としては革新的だったが、市場に受け入れられずに短命に終わったモデルである。
メグロ S3ベースのスペシャルマシン
ベースはメグロS3だが、よりスポーディーにワンオフされたスペシャルマシン。そのシンリンダーはアルミのブロックから削りだされた一品物!
1980年代に筑波サーキットで行われていた、タイムトンネルなどで活躍していた由来を持つ。
なお、取材の帰りがけに聞いた話では、今回のメグロの盛り上がりをきっかけに、かつてメグロの工場が稼働していた栃木県烏山市で、2021年秋に「メグロだけのイベント」をパイオニアランジャパン実行委員会では企画しているという。
現段階で決まっている概要は次の通りとのこと。
■イベントの目的と内容
旧メグロ烏山製作所跡地を聖地として過去に生産されたメグロの文化的価値の再確認と末永くメグロを実動させていく。当日は旧メグロ烏山工場跡地にて記念撮影を行い烏山市内を約10km走行。参加したメンバーの現車確認と親睦交流等。
■参加資格
01.参加車両は現役実動メグロ車
02.メグロの補助伴走車
03.メグロのオーナーを希望する方、またはこのイベントの理解と賛同と協賛される方
■イベント名:第1回メグロ烏山キャノンボール(仮称)
■日時:2021年11月7日(日)午前10時〜
■場所:栃木県那須烏山市観光協会「山あげ会館」駐車場
(栃木県那須烏山市2-5-26 TEL0287-84-1977)
■主催:パイオニアランジャパン実行委員会
コロナウイルス感染対策上、イベント開催に変更が生じる事もあるため、詳しい情報は順次「パイオニアランジャパン」のホームページに掲載予定とのこと。
レポート&写真●上屋 博 取材協力●パイオニアランジャパン事務局
編集●上野茂岐