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2021年4月から、実写版ドラマのシーズン2がBSテレ東で放送されているのが「ゆるキャン△」。この劇中で、キャンプを愛する主人公の志摩リン(福原 遥)がソロキャンプの足としてフル活用しているのが、ヤマハの原付一種スクーター、ビーノです。かわいいい系スクーターの代表格として20年以上の歴史を持つ、ビーノシリーズの歴史を振り返ります!!
初代ビーノは1997年に登場
50ccスクーターの初代ビーノは1997年3月に発売。バイクに限らず当時の若年層女性に浸透していた「レトロ=かわいい」を強く意識してデザインされた丸みを帯びたフォルムで、フロントカウルに配された大きな丸型ヘッドライトとカバーレスハンドル&独立タイプのメーターは、その後のモデルにも受け継がれる特徴的な装備でした。
バイクなのに……ワインが車名の由来!?
車名の「VINO」はイタリア語で「ワイン」の意味。イタリアンワイン(またはイタリアそのもの)から想起される明るさや華やかさなどに由来するとのことですが、これはイタリア本国でベスパが「日本酒(あるいはSAKE)」というスクーターを販売するのと同じような状態とも……。
それはともかく、すでに発売されていたジョグ アプリオの49cc空冷2スト単気筒エンジンを採用しながら、ボトムリンク式フロントサスや独自ボディデザインでまとめられたビーノは、発売後すぐに大人気モデルとなりました。
CMキャラクターには、奥田民生プロデュースで前年にデビューして、すでに絶大な人気を得ていた女性デュオの「PUFFY(パフィー)」を起用。ニューシングル「サーキットの娘」を、ビーノの発売とほぼ同時期にリリースする強力タイアップで、「うちから5kmの大冒険」というキャッチコピーが使われたPUFFY出演のTVCMも頻繁に提供されました。
デビューからちょうど1年後の1998年3月には、レッグシールドモールやフロアマット、樽型グリップなどを専用装備したビーノ クラシックも追加。女性向きのレトロポップ原付スクーターとして、広く認知される存在になったのです。
2代目ビーノはいち早く環境に配慮した4スト仕様
新発売から丸7年が経過した2004年3月、ビーノは初のフルモデルチェンジ。まず、生産がそれまでの日本から台湾に移管され、丸みを帯びたレトロポップな雰囲気はそのままに、ヤマハ50ccスクーターでは初めて水冷4ストOHC3バルブ&メッキシリンダーを採用した新開発エンジンを搭載しました。
この当時、日本国内の原付一種クラスは年間40万台規模の需要で推移。環境規制が強化される状況において、いち早くこれに対応したのがビーノでした。
テレスコピック式のフロントフォークや軽量なアルミ製前後ホイール(前後10インチ径)など、走行性能を高める設計も取り入れつつ、エンジンだけでなく外装デザインも一新。しかしそれでも、ひと目でビーノとわかるルックスは、その後も女性ユーザーを中心に人気を集めます。
当初は、標準仕様のビーノと細部の仕上げが豪華なデラックスの2タイプでしたが、翌2005年3月にはリモコン仕様も追加。こちらは現在のハイグレードな車種が採用するようなキーレスシステムとは違って、リモコン操作によりアンサーバックやキーシャッターオープン&リヤホイールロック解除、シートオープンが可能というものでした。
その後、2007年11月には燃料供給がインジェクション化。フロントフォークには乗り心地に優れるオイルダンパー式が新採用されるなどのマイナーチェンジを受けました。
さらに2009年4月には、ヘッドライトを移設してロールシャッター付きの前カゴを追加した派生モデルのビーノ モルフェが新登場。完全に主婦層などのお買い物向けを狙った車種で、レトロポップ度では標準仕様のビーノに負けますが、もしも現在までこの車種があったら、リンちゃんがキャンプ旅に使うにはより便利だったことでしょう……。
2015年10月には、このモルフェも含めて排気系の見直しや新ECUの採用、O2フィードバック制御の織り込みなどが施されて、馬力&トルクと燃費性能が向上。さらに2017年8月にも、平成28年度国内排出ガス規制適合化の改良が施されました。
現在の3代目ビーノはホンダ生産車
このように、長年にわたりジョグと並ぶヤマハ原付スクーターを代表するモデルとして人気となってきたビーノシリーズですが、最後の熟成からわずか9ヵ月後の2018年5月、大幅な路線変更を強いられます。
ヤマハとホンダは、2016年から日本国内の50ccスクーター領域での協業に向けた業務提携について検討を開始。当時の国内における原付一種の需要は、すでに16~17万台規模に減少していて、各社が開発に力を入れる魅力が失われてきていたのです。そして2018年、ヤマハが販売する50㏄スクーターのうちビジネスタイプのギアシリーズを除くモデルは、ホンダのOEMになったのです。
このような背景で誕生した3代目ビーノは、ホンダが生産するレトロ調スクーターのジョルノをベースに開発されています。以前は真っ向勝負のライバル関係にあった2車が、突如として姉妹に……。それも、ロゴや塗色などには違いがあるものの、車体の後半は基本的なつくりがそっくりそのまま共通化されていて、ほぼ双子のような状態です。
もちろん、ジョルノと同じくアイドリングストップシステムやコンビブレーキも採用。OHC2バルブの49cc水冷単気筒エンジンも、まったく同一です。
それでも、やっぱりビーノがこだわったのはフロントカウルに装着されたヘッドライトと、カバーレスのハンドル。この点においては、カバー付きのハンドルにマウントされた丸型ヘッドライトを備えるジョルノとは、完全に差別化されています。
ちなみに、実写版のTVドラマではこの現行型に特別なカラーリングを施したビーノが使われているのですが、「ゆるキャン△」は2015年7月に連載が開始された漫画が原作。3代目ビーノの発売より早く2018年1月にはTVアニメのシーズン1も放送が開始されていて、つまり漫画やアニメに登場するビーノ「そっくり」な原付は、現行の3代目がモチーフではないんです。
アニメのシーズン1・エピソード4で細かく描写されているメーターは、完全に2代目のもの。ただしエンジン音は2ストのようで……。ま、あくまでも創作上のバイクですから、あまり細かく識別するのは野暮ってものですね。
レポート●田宮 徹 写真●ヤマハ/八重洲出版 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実