空冷のDOHC並列4気筒エンジンを搭載し、’72年にデビューしたカワサキのZ1こと900 Super4。今もクラシックバイク界で絶大な人気を誇ります。初期から採用された「火の玉」カラーは印象的で、カワサキZを象徴する塗色とも言えますね。
当然の話になりますが、市販されるまでに「開発」という段階を踏んでいるのは、Z1とてほかのあらゆる製品群と変わりありません。上の写真は第一次のモックアップとされ、時期は’68年の夏頃と言われています。市販化の実に4年前のことですから、いかに入念な開発過程を経ていたかがわかります。
上は、モックアップ段階を脱して実際に走行できるようになったプロトタイプ車です。エンジンは市販版と形状が大きく異なり、外装や足まわりに2サイクル3気筒のマッハシリーズのものを流用しています。かつて谷田部にあった日本自動車研究所のテストコースで撮影されたものと言われています。モックアップと同じ’68年の晩夏とされ、この時期はまだ初期構想に沿った750ccエンジンだったようです。なお、Z1に続き日本国内向けに市販されたZ2こと750RSは、900ccエンジンのスケールダウン版ですから、最初から750ccとして設計されたプロト車とはまったく生い立ちが異なるわけです。
同じく谷田部の撮影と思しきプロト車のカット。しかし、この’68年、カワサキにとって衝撃的な1台が秋のモーターショーで発表されました。それが、シングルカム(OHC)ながら並列4気筒エンジンを採用した、ホンダCB750Fourでした。これにより、第一次構想の750ccプロトは路線変更を余儀なくされることになりました。
排気量が拡大され900cc(実排気量は903cc)となったZ1は、’72年後半になって海外市場向けに供給が始まりました。ティアドロップ型の燃料タンクに印象的な火の玉カラー、流麗なテールカウルと相まって、実に美しいスタイルを実現しています。一躍、大人気モデルとなりました。
写真の車両はごくごく初期の車両で、フレーム番号はなんと11番! こういった若いフレーム番号の車両は「量産試作」と言われたりもします。厳密に言えば市販版ではなく、ディーラーやメディア向けの発表会や試乗会に使われたり、立ち上がったばかりの生産ラインが正常に稼働するか確認するために一定数組み立てられます。従って、量産試作車は基本的に市場には流通しません。ただ、当時の関係者が保管していた車両が後年になって流出し、マニアの手に収まるといった事例があるようです。この11番車もそうした経緯を経ています。なお、フレーム番号が概ね50番くらいまではこういった扱いのようです。
この時期は本来あるべき「903cc」の鋳出しがシリンダーになく、「cc」のみとなっています。試作テスト段階で実排気量を秘匿していた名残でしょうか。
しかし、このエンジンは・・・? Z1のエンジンであることを示す「Z1E」ではなく「V1E」となっています。タイトルカットの青い車両に積んでいるものですが、これは一体なんでしょうか?
<その2>に続きます。