Z-LTD:「ジャメリカン」の道筋を作った男カワサキの異端児
オイルショックや排出ガス規制による影響が一段落した後、再び力を取り戻した国内二輪メーカーは1970年代後半から高性能なモデルを次々とリリースしていく。
そして、メーカー間の競争に拍車もかかり、80年代に入ると多種多様なモデルが送り出されるようにもなった(国内2大メーカーのホンダ・ヤマハによる販売競争「HY戦争」はあまりにも有名な話だ)。
多様なモデルが生まれていく一方、残念ながら歴史に埋もれていったモデルも少なくない。
ロードスポーツモデルをベースにした「アメリカン」などがその一例だろう(今日では「クルーザー」と呼ばれる類だが、当時は「アメリカン」がその手のモデルの呼び名だった)。
「ベース車臭」が抜けず、どこか完全にはアメリカンになり切れなかった感もあって、ジャパニーズ・アメリカン。
……略して「ジャメリカン」などとも呼ばれるロードスポーツモデル改のアメリカンモデルだが、70年代末〜80年代にかけて、カワサキはロードスポーツの雄「Z」シリーズをそうしたアメリカンに仕立てていたのである。
903cc並列4気筒DOHCエンジンというインパクトで、Z1(900SUPER FOUR)により世界を席巻したカワサキ。
先に登場したホンダCB750Fourとともに、「大排気量インライン4」は日本のお家芸を印象付ける名車となったわけだが、そのエンジン形式をさらに派生モデルに載せ、北米市場での販売を強化すべく生まれたのが、初期の国産アメリカンモデルだ。
Z1系ベースのLTDから、FXベース、ザッパーベースも
70年代後半、Z1系のZ1000A型エンジンを搭載したZ1000LTDが輸出向けにリリースされたのと前後して、日本市場にも続々と「弟分」たちが送り込まれた。
それらZ-LTDシリーズに共通する特徴は以下のとおりだ(一部該当しない例もある)。
カワサキ Z1000LTD(輸出専用車)
- 各排気量クラスの既存ロードモデルのエンジンをベースにする。
- キャスターを寝かせ、トレール量も増大。
- プルバックハンドル&段付きシートの採用。
- ベースのロードスポーツモデルに対し、前輪は19インチに大径化、後輪は16インチと小径化。
要となるフレームはベース車のディメンションを大きく変えるわけではなく、シート下フレームのロワリング加工を実施。シート高を低くし足着き性を良好にしたうえで、アメリカンらしい外観も確保。
フレーム加工まで行ったというのは、国産アメリカンのなかでもカワサキZ-LTDシリーズならではのものだったというが(Z650LTDなど例外もあり)、当時この低いシート高とティアドロップタンク、ホースバックライディングのフォルムがLTDシリーズのアイコンとなり一定の人気を得て行ったのだと思う。
カワサキ Z400LTD-II(並列4気筒+チェーン駆動)
カワサキ Z650LTD(並列4気筒+チェーン駆動)
同排気量のLTDでも直4/ツイン、シングル/ツインをラインアップ
また、Z-LTDシリーズの特筆すべき点は、各排気量に複数のLTDモデルが存在したこと。かなりの台数があるので、国内販売モデルに限って紹介すると……。
- 250ccクラス:Z250LTD(Z250FS系単気筒エンジン)、Z250LTDツイン(Z250FT系並列2気筒エンジン)。いずれも前期型はチェーン駆動だが、後期型はベルト駆動となり、車名にもbelt-driveと入るようになる。
- 400ccクラス:Z400LTD(Z400系並列2気筒エンジン。後にbelt-driveが追加)、Z400LTD-II(Z400FX系並列4気筒エンジン)。
- 400cc超クラス:Z550LTD(Z550FX系並列4気筒エンジン)、Z650LTD(ザッパーでおなじみのZ650系並列4気筒エンジン)、Z750LTD(Z750FX-II系並列4気筒エンジン)、Z750LTD-TWIN(Z750T系並列2気筒エンジン)。
カワサキ Z250LTD(単気筒+チェーン駆動)
カワサキ Z250LTDツイン(並列2気筒+チェーン駆動)
カワサキ LTD250ベルトドライブ(単気筒+ベルト駆動)
Z250LTDベルトドライブ(並列2気筒+ベルト駆動)
これに輸出向けの440cc仕様、Z1000系のLTD仕様なども存在することから分かるように、LTDシリーズだけでも今では考えられないほどのエンジン形式、駆動方式のバリエーションを持っていたのだ。
それを鑑みると、カワサキは70代後半から80年代にかけ、LTDシリーズに非常に大きな期待をかけていたと察せられるが──。
よりアメリカンらしい専用の車体、Vツインエンジンの投入(今やアメリカン……というかクルーザーでは定番)など、アメリカンモデルはENシリーズ、バルカンシリーズへとバトンを渡していく。
カワサキ Z400LTDベルトドライブ(並列2気筒+ベルト駆動)
カワサキ Z550LTD(並列4気筒+チェーン駆動)
カワサキ Z750LTD(並列4気筒+チェーン駆動)
「ロードスポーツ改」のジャパニーズアメリカンは過渡期的存在だったとも言えるが、カワサキはこの後もスポーツモデルのGPZ系エンジンを搭載したドラッグレーサーイメージのアメリカン「エリミネーター」を送り出し、「直列エンジンアメリカン」の系譜は地味に続いていくのである。
レポート●阪本一史 写真●八重洲出版 編集●上野茂岐