ヒストリー

ディオvsジョグの対決と、独自路線のセピアがまぶしかった…… ついに終焉を迎えた「原チャリブーム」ヒストリー【1990年代編】

3回に渡って1980年代に発売されたスクーターたちを振り返ってみたが、40年近くも前なのに個性あふれるモデルが多かった。

今見ても新鮮に思えたが、では1990年代に入ると各社どのように変化したのだろう。すでに原付でもヘルメット着用が義務付けられ、いわゆる3ない運動が定着した時期でもある。エントリーユーザーたる高校生がバイクに乗らなくなったことで、スクーターの販売台数が激減した時代だ。
80年代にスクーターに乗っていた若いユーザー層が加齢とともに、中型免許を取得していったことも影響したのだろう。とにかくあれだけ売れた50ccスクーターが目玉商品にならない時代になる。

その代わりに注目されたのが原付2種、つまり51cc以上125cc未満のスクーターだ。さらにはヤマハSR400のスカチューンをきっかけに、カスタムバイクがブームになっていく。1990年代も中盤になると、ビッグスクーターがブームになる。

こうして振り返ると1990年代は、スクーター不毛の時代だったかに思える。けれど、そんな時代だからこそ、あえてニューモデルとして登場したスクーターには各社力が入っていたとも言える。まず1990年から見てみよう。

ディオ、セピアZZ、アクシスが発売され、80年代の勢いが続くかと思われたが……

1990年はやはりホンダが動く。1月24日にフロントディスクブレーキを装備するディオSRを新発売するのだ。

スポーツモデルにディスクブレーキが必需品になる時代を反映していたもので、さらにはフルフェイスも収納可能なメットイン機構など、速いだけでなく便利さも追求していた。価格は13万9000円。

ホンダ・ディオSR

1990年発売のホンダ・ディオSR。

3月になるとスズキがセピアZZを発売して追撃が始まる。前年に発売して好調な売れ行きを示していたセピアをベースに、フロントディスクブレーキやリヤスポイラーを装備するスポーツモデルがセピアZZで、7psエンジンによる鋭い加速で大人気になった。価格は14万6000円。

スズキ・セピアZZ

1990年発売のスズキ・セピアZZ。

すると4月にはヤマハがアクシスを新発売する。移動革命をうたい、ニュージョグの上級モデルという位置付けであった。
テレスコピックフロントフォークとディスクブレーキのほか、リヤスポイラーも装備していた。価格は15万9000円。

さらに6月、アクシスにトランクを装備するトランク仕様が、7月には90ccモデルが追加されている。

ヤマハ・アクシス

1990年発売のヤマハ・アクシス。

1980年代の勢いが続くかに思えた序盤だが、その後は各社沈黙する。12月になってようやくホンダが、ディオのデザインを一新したモデルチェンジを実施する。いわゆるスーパーディオの登場で、メットイン機構や6.8psエンジンなどソツのない仕様だった。価格は13万4000円。

ホンダ、ヤマハ、スズキが次々と50ccモデルを投入し、1980年代の勢いが続くかに思えたが、その後は各社沈黙する。
1990年は12月になって、ようやくホンダがディオのデザインを一新したモデルチェンジを実施する。

いわゆるスーパーディオの登場で、メットイン機構や6.8psエンジンなどソツのない仕様だった。価格は13万4000円。

ホンダ・ディオ

1990年発売のホンダ・ディオ。

アドレスV100の登場で加速する「脱50ccスクーター」の流れ

翌年の1991年もホンダから動き始める。1月にディオへフロントディスクブレーキを装備するディオSRを追加発売する。
後出しジャンケンのようだが、1月は毎年、何かしらホンダがニューモデルを発売するのが通例になっていた時期だ。価格は14万5000円。

ホンダ・ディオSR

1991年発売のホンダ・ディオSR。

これに続いたのはヤマハで、1月にジョグをモデルチェンジして4代目に進化させた。

パワフルな7psエンジンを備え巻き返しを図り、さらに4月、なんとブレンボキャリパーを備えるフロントディスクブレーキ仕様のジョグZを追加する。これはパンチが効いていた。価格は15万2000円。

ヤマハ・ジョグZ

1991年発売のヤマハ・ジョグZ。

だが、この年の注目すべきスクーターはスズキのアドレスV100だ。

前年にヤマハがアクシスに90ccエンジンを搭載して脱50ccの機運が見え始めていたが、こちらの100ccエンジンは他のスクーターとは比較にならない加速力を備えていた。
ボディは小型軽量だから街中でのスリ抜けも得意。そうなのだ、アドレスV100こそ脱50ccのきっかけであり、その後のスクーターが排気量を拡大していく原動力にもなったのだ。

1991年発売のスズキ・アドレスV100。

脱50cc化が進むなか、ジョグ対ディオという対立図式はより鮮明になるものの、80年代のようなニューモデルラッシュは起こらない。

続くのは1992年になってからのことで、2月にホンダがディオZXを追加発売する。

ディオZXにはハイマウントストップランプを内蔵するリヤスポイラーが標準装備されており、大きな訴求力を持っていた。またエンジンが7psにパワーアップしたことも特筆できた。価格は15万9000円。

ホンダ・ディオZX

1992年発売のホンダ・ディオZX。

だが、ヤマハは3月にジョグZ Sタイプを追加したくらいで追撃の手はゆるい。というより、この時期はすでにスクーターの販売台数が落ちていたため新型車開発のペースが落ちていたのだろう。

スズキも前年に引き続き、7psを発揮するピストンリードバルブエンジンを搭載したアドレスVチューンや、フロントまわりを変更したセピアZZを展開していたが、ニューモデルの発売など大きな動きはないままだった。

ディオ vs ジョグの対決構図と、独自路線のセピア

明けて1993年、1月にヤマハはスーパージョグZを発売する。オイルダンパー内蔵フロントフォークなど新機軸を打ち出し、2月にはジョグにブレンボキャリパーのフロントディスクブレーキ仕様となるEXも追加された。

とはいえ同月、スズキはセピアZZのエンジン出力を自主規制値である7.2psへ引き上げる。これが最大のトピックだろう。

1993年発売のスズキ・セピアZZ(写真は1995年モデル)。

7.2psという数値は、1983年発売のホンダ・ビート以来の出来事だった。

ホンダは特別仕様やカラーリングで目新しさを引き出すも、エポックになるニューモデルは3月にモデルチェンジしたタクトくらいだ。

新型タクトは6.1psエンジン、メットイン機構などで構成されたが、デザインの斬新さが印象的。1989年に登場したモデルにもあった、メインスイッチにより電動でスタンドが上がるスタンドアップ仕様も設定された。買い物や通勤などでの利便性を高めていた。価格は15万9000円でスタンドアップは17万5000円。

ホンダ・タクトスタンドアップ

1993年発売のホンダ・タクトスタンドアップ。

1994年もホンダから。まず1月にディオをモデルチェンジさせて、いわゆるライブ・ディオへと進化させている。

シリンダーを水平配置にした新設計エンジンは、ZXで7.2psを発生してクラストップの出力。標準モデルとSRは7ps仕様だった。またSRとZXにはフロントディスクブレーキが装備された。価格はディオが14万4000円、SRが15万6000円、ZXが16万7000円だった。

ホンダ・ディオZX

1994年発売のホンダ・ディオZX。

さらにホンダは新型ディオを発売したばかりながら、旧ディオをベースにオフロード感覚のスタイルを与えたディオXRバハを追加発売する。
ブロックタイヤやデュアルヘッドライト、フロントディスクブレーキなど本格的な装備が与えられた。価格は16万5000円。

ホンダ・ディオXRバハ

1994年発売のホンダ・ディオXRバハ。

ヤマハは1993年12月に燃費性能に優れるジョグアプリオを発売していたが、2月にはフロントディスクブレーキを装備したジョグアプリオEXを発売。また8月にはジュビロ磐田イメージのカラーリングを施したサマーバージョンを発売しているが、ニュースは12月に発売されたジョグZRだろう。

1月にクラストップの7.2psを実現したディオを追撃すべく、同じ7.2psにエンジンをパワーアップさせたほか、リザーバタンク付きリヤショックなどを装備していた。価格は16万8000円。

ヤマハ・ジョグZR

1994年発売のヤマハ・ジョグZR。


1980年代に比べると一気にニューモデルが減った1990年代前半だが、後半になっても同じような状況が続いた。

事実、スポーツモデルといえるスクーターはスズキが1997年にストリートマジック、2000年にZZを発売している以外に目立ったニューモデル発売はなく、カラー変更などのマイナーチェンジがほとんど。

代わりにクラシックスタイルのホンダ・ジョルノやヤマハ・ビーノなど、アンティークな雰囲気のなかに実用性を盛り込んだ、「生活の足」として使えるモデルが増えていった。

だがこれは、スクーターブームの中心にいた層が250cc以上のモデルに移行し、アメリカンモデルやビッグスクーター、スカチューンなどが主流になったためで、原付スクーターのブームが終焉しただけと言えるのだろう。

1980年代から長きに渡り続き、若者を熱狂させた原付スクーターブームは、こうして静かに幕を下ろしたのであった。

text:増田 満
まとめ:モーサイWEB編集部


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