70年代の全米レースを席巻した伝説的バイクが生誕50周年
ハーレー・ダビッドソンと言えば、アメリカのひたすら真っ直ぐなハイウェイを走る、アメリカンバイクの代名詞的なイメージが強いですよね。
でも、約50年前に驚異の戦闘力を発揮するレーシングマシンを世に送り出していて、当時の全米レースシーンを席巻したのです。
ここでは、そんなハーレーの伝説的バイク「XR750」についてご紹介します。
英国車勢を迎え撃つべく開発されたXR750
1970年、ハーレー・ダビッドソンはアメリカのレース統括団体AMAが主催するGNC(Grand National Championshipの略、AMAグランドナショナル選手権)の参戦マシンとしてXR750を発表しました。
全米を舞台に繰り広げられるGNCは、アメリカで長い歴史を誇るレースで、当時大きな人気を誇っていました。
大きな特徴は、未舗装のダートコースで競われるフラットトラックやTT、それに舗装路のサーキットで競われるロードレースといった、異なる種目の結果を総合してチャンピオンを決定すること。いわば、どんなコースでも速い「最強のライダー決定戦」だったのです。
後にWGP(ロードレース世界選手権、MotoGPの前身)で世界的に有名になる、ケニー・ロバーツ選手やウェイン・レイニー選手も、元々はGNCの出身。
また、日本ではあまり知られていませんが、アメリカのレース界で伝説となっているジェイ・スプリングスティーン選手など、幾多のスターライダーを輩出しています。
当時のGNCは、1960年代からトライアンフやBSAなど英国車勢の活躍が目立つような状況でした。
そこで、純アメリカ製バイクの復権を果たすべく、ハーレー・ダビッドソンが製作したのがXR750。それまでハーレーのファクトリーが使用していたKR750に替わるマシンとして開発されました。
1970年に登場した初代XR750のエンジンは、排気量749ccのOHV(オーバーヘッドバルブ)・Vツイン。従来型KRのエンジンがサイドバルブ方式なのに対し、XRではシリンダーヘッド上にバルブ機構を持つOHVへと進化し、より高性能化を実現しています。
また、ハーレーのスポーツモデルともいえる、当時のスポーツスターが採用していた鋳鉄のシリンダー&ヘッドを採用。シングルキャブ仕様というのもスポーツスターと同様でした。
そのため、エンジンの見た目は、1950年代から約30年間作られたロングセラーモデル、通称「アイアン・スポーツスター」と瓜二つ。
ところが、実はエンジンの中身はアイアン・スポーツスターとは全くの別物でした。GNCが規定する排気量上限の750ccに合わせてショートストローク化などのチューニングを施すことで、一説では最高出力71~73psを発揮していたと言われています。
今でこそ、750ccのバイクで70ps程度というのは、たいした馬力とは思えませんよね。でも、当時ではかなりのハイパワー仕様だったのです。
例えば、1968年に登場したスポーツスターXLCHのエンジンは、排気量883ccで最高出力が58ps程度。いかにXRのエンジンがチューンされていたかが分かるでしょう。
ただし、鋳鉄を用いた初代XR750のエンジンは熱的な問題などを抱えていて、1972年には、アルミヘッドを使用した新型XR750が登場します。
レースだけでなくスタントバイクとしても活躍
アルミヘッドの採用で信頼性とさらなるパワーを獲得したXR750は、以降のGNCでは数多くのタイトルをハーレーにもたらします。
また、アメリカのスタントライダーとして名を馳せたイーブル・ニーブル氏は、1970年から1976年にかけてXR750をスタントバイクに使用。
レースだけでなく、スタントにも使われることで、ハーレー歴代モデルの中でも、特にアイコニックな存在に。アメリカを中心に、今でもマニアたちの憧れの1台となっている所以です。
半世紀に渡り現役で活躍したXR750
XR750は、2016年にハーレーファクトリーが新型マシンXG750Rを投入するまで、約半世紀に渡ってアメリカンレーシング界で活躍しました。
驚くべきは、基本設計がほぼそのままだったこと。レーシングマシンとしては異例の長寿モデルとなりました。
また、カスタムバイクの源流としても有名です。
ハーレー・スポーツスターのカスタムでは、「トラッカー」と呼ばれるスタイルが存在し日本でも古くから人気がありますが、そのイメージソースはもちろんフラットトラックのレースで活躍したXR750です。
生誕50周年を迎えたXR750は、ハーレー・ダビッドソンが作った数多くの伝説的バイクの中でも、市販車ではなく一般の人が乗れないレーシングマシンという点で、特に異色の名車です。その美しい佇まいは、今でも多くのファンの心を奪ってやみません。
レポート●土山 亮 写真●ハーレーダダビッドソン 編集●平塚直樹