1982年~2007年 ホンダ・VT/VTR系
1982~2007年にホンダが販売したVTシリーズに対する印象は、世代や居住地で大きく異なるだろう。現在の年齢が40代以下なら、エントリーユーザーに最適なベーシックモデルというイメージを持っているはずだし、大都市近郊在住の50代以上のライダーは、バイク便御用達という見方をするのかもしれない。
しかしデビュー当初のVT250Fは、ヤマハRZの牙城を崩すべく、GPレーサーNR500の技術を転用して生まれた、バリバリのスポーツモデルだったのだ。
中でも注目するべきは、Vバンク間にダウンドラフト式キャブレターを配置した水冷DOHC4バルブ90度Vツインで、その構造は当時の2気筒エンジンで最も先進的だった。
余談だが、90度Vツイン(それゆえLツインとも呼ばれる)に特化したメーカーのドゥカティが、Vバンク間のダウンドラフト吸気を初めて採用したのは1986年型750パゾで、水冷DOHC4バルブの第一号車は1988年型851である。
1984年~2017年 ヤマハ・FJ/XJR系
1984年から発売が始まったFJ1100は、当時の空冷並列4気筒車で最強となる125psを発揮。もっとも日本市場での人気は、ホンダCB1100RやカワサキGPz1100、スズキGSX1100Sカタナなどの影に隠れて、いまひとつパッとしなかったのだが……。
しかし、FJのエンジンを転用して生まれた1994年以降のXJR1200/1300は、同時代に販売された他社のビッグネイキッドを圧倒する人気を獲得し、2017年まで生産が続く長寿車となった。
なおカワサキZ1系やスズキGSXシリーズと並んで、アメリカのドラッグレースで絶大な人気を誇ったFJ/XJRの空冷並列4気筒だが、排気量の1300cc化に伴い、メッキシリンダーと鍛造ピストンを導入。
それにともない、クランクシャフトやコンロッドなどを見直した1998年以降のエンジンは、それまでのエンジンと比較すると、チューニングに対する許容範囲が狭い……とも言われている。
1999年~現在 スズキSV650/Vストローム650系
近年の2輪業界では、600~800ccを中心としたミドルスポーツ市場がかなりの活況を呈している。その先鞭を付けたと言えるのが、スズキが1999年から発売を開始し、現在も生産が続くSV650だ。
といってもそれ以前から、日欧のメーカーは多種多様なミドルスポーツを販売していたが、2000年代前半のヨーロッパで、軽量で利便性に優れるSVが大人気を獲得したからこそ、他メーカーはミドルスポーツに本腰を入れ始め、新規エンジンの開発に着手したのである。
なお一般的なVツインが、カムシャフトを駆動する部品を同一面に配置するのに対して、左右幅の抑制に配慮したスズキのTL/SV/Vストローム系は、カムチェーン+スプロケットをフロントバンクは右側に、リヤバンクは左側にそれぞれ設置している。
また、当初は鋳鉄スリーブ入りだったSV650系のシリンダーは、2009年から兄弟機のSV1000と同様のアルミメッキシリンダーになった。
文●中村友彦 写真●八重洲出版 *2020年6月4日加筆修正をおこないました
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