原チャリ、スーパーケッターマシーンと(一部地域では)呼ばれる原動機付自転車は主に50ccの原付一種を指すことが多い……気がする。そして現在流通している50cc車のエンジンはすべて単気筒。コストだったり耐久性だったり、多気筒化する理由がないんだもの。
そもそもエンジンの多気筒化の狙いは高回転・高出力化による最高速のアップ。1/1000秒単位でしのぎを削り合うワークスマシンならばいざ知らず、生活の足としての使用が多い原付で多気筒化する必要性はほぼ皆無。

国産唯一!50ccツインエンジン搭載の市販車、ベビーツインAA型

だがしかし、日本のバイク史をひも解いて見ると、50ccツインエンジンを搭載した公道市販モデルが実は存在している。
しかも、いわゆる実用車スタイルで。
それが、1960年の夏に発表された三笠技研工業(旧ヘルス自動車)から販売されたベビーツインAA型。C100に端を発する1960年代のモペットブームの最中に登場しただけあって、スタイルは実にカブに似ている。
4ps/6200rpm、0.35kgm/6000rpmというエンジンスペックは排気量相応だが、セル付き(……というかむしろ始動はセルのみという点にも驚くのだが)2サイクル2気筒ロータリーバルブエンジンは一説によると最高速度85km/hをほこり、ほかのモペット車と比べると幾分速かった。
が、多気筒化に伴うコスト増のためか、ほかの同クラス車両は4万5000円〜5万円台の値段のものが多かった時代に、ベビーツインAA型の当時価格は6万4500円とちょっとお高め。しかも、なぜかバッテリーは当時にしては珍しく12V。
販売価格のせいなのか、あるいはもっと別の問題か。同時期に販売されたヘルスERS型(同じく2サイクルの2気筒で125cc)ともども売れ行きはかんばしいものではなかった。
結局ERS型の販売台数は2桁台がやっと、ベビーツインAAに至ってはサンプル程度にしか流通しなかったようで、ほどなく三笠技研工業自身もバイクの製造からは撤退していった。
もしも万が一、億が一にも同車らが納屋に眠っている……としたら、相当なお宝であろう。多分。


三笠技研工業・ベビーツインAA型主要諸元
■エンジン ロータリーバルブ空冷2サイクル並列2気筒 ボア・ストローク30×34mm 総排気量48cc 圧縮比7.5 気化器M10C 点火方式バッテリー(12V) 始動方式セル
■性能 最高出力4ps/6200rpm 最大トルク0.35kgm/6500rpm 燃費75km/L
■変速機 4段 変速比 1速3.923 2速2.368 3速1.667 4速1.244 1次減速比3.529 2次減速比2.833
■寸法 全長1680 全幅600 全高950 軸距1110 最低地上高150(各mm) タイヤサイズ前後2.25-17
■容量 燃料タンク4.5L
■1960年当時価格 6万4500円
まとめ●モーサイ編集部・高垣 写真●八重洲出版/モーサイ編集部・高垣