スーパーカブC100を現代で走らせるとどうなのか
スーパーカブ以外の、ほかの工業製品に目を転じれば、登場から約60年の間にテレビは白黒ブラウン管からカラーを経て薄型液晶や有機ELへと格段に進化したし、洗濯機は水流を起こす洗い槽のみの単槽式から、脱水槽が付いた2槽式を経て、洗いも脱水も乾燥もすべて全自動の単槽ドラム式が当たり前になった。
これらと比較してみると、スーパーカブの進化は実に微々たるものと言えるし、逆の言い方をすれば、スーパーカブがデビュー当時いかに先進的だったかということだろう。
現行カブよりも明らかに小ぶりでスリムな1959年型スーパーカブC100は、当時の日本人の体格に合わせて気軽に乗り回せることを想定したはずで、ハンドルは近く低い。
気軽さをまず感じつつ発進してみると、驚いたのは回転がためらいなく上昇していくことだった。スロットルを開けていくと、C100はどんどん回転を上げ、速度を乗せる。9500rpmで最高出力をたたき出す、当時としては相当高回転型のエンジンは、そうしないと威力を発揮しない。
オーナーから「よく回るけれど、トルクがない」と言う声も聞かれるが、内部を構成するパーツを見てもそれは分かるそうだ。それぞれがシェイプアップされていて軽く造形も美しい反面、それゆえに慣性マスが足りない印象とも語る。
だがそこに、50㏄のエンジンからいかにして出力を絞り出していこうかという、知恵と本気度が感じられる。クローズドコースで試してみると、速度は70㎞/hちょっとは出るし、60㎞/h前後の速度も常用可能だから、走りは現代の原付と何ら変わらないことがわかる。
ホンダコレクションホールが所蔵する、1958年型C100のエンジンを全分解したときの写真。補強リブが非常に少ないケース内側、大きく肉抜きされたクラッチハウジングやプライマリードリブンギヤ、フィンが刻まれたアルミ製のヘッドカバー(すぐにフィンなしの鋳鉄製に変更された)など、各所に初期モデルならではの特徴がある。
同じくコレクションホール所蔵車のストリップ。フレームのダウンチューブ部から伸びる、シリンダーを「吊る」ブラケットがあるのがわかる。
これは1960年前期までの特徴で、「吊りカブ」と呼ばれマニアの間では希少価値の高いモデルとして認知されている。
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※本記事は2017年発行ヤエスメディアブック「HONDA スーパーカブメモリアル」に掲載の記事を編集・再構成したものです。
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