ホンダCB750Fourの登場を機にナナハンブームが巻き起こった1970年代。「どれが一番速いのか?」と誰しも思ったに違いない。
雑誌メディアももちろん同じ。1973年のモーターサイクリスト誌では『総力特集、国産重量車の定地テスト&性能比較』という企画を展開。計11台をテストしたなかで、ナナハンクラスとしては、空冷4ストローク並列4気筒のカワサキZ2とホンダCB750フォア、空冷4ストローク並列2気筒のヤマハTX750、水冷2ストローク3気筒のスズキGT750、空冷2ストローク3気筒のカワサキ750SSと、今日「名車」と呼ばれるマシンが集められている。
そのときのナナハンマシン実測性能テストの結果と試乗記を以下に紹介したい。テストライダーは、現在もモーターサイクルジャーナリストとして活躍している当時20代前半だった山田 純さんだ。
(山田 純さんは単身で渡米してレーサー修行を積んだ後に国内の選手権に参戦し、1970年代初頭からジャーナリストとしての活動を開始。ジャンルや排気量を問わず、どんなバイクもスマートに乗りこなすので、瞬く間に人気テスターになった)
1973年ナナハンマシン実測性能表
最高速●助走は約1㎞で、計測区間は200m。 ゼロヨン加速●コースを往復しての平均値。 停止距離●表内ではZ2が最も優秀だが、これは初速が他車より2~5㎞/hほど低かったため。実際の感触はフロントダブルディスクのGT750が最も良好だったようだ。 筑波サーキットのタイム●ゼロスタートから2周目。もっと周回数が多ければタイムは全体に縮んだだろう。
最高速度はカワサキZ2が圧倒的だった
ライバル勢とは次元が異なるトップスピードを記録したのは、最後発のナナハンとして登場したZ2で、DOHCエンジンの吹け上がりは低中回転域でも十分に素晴らしく、シフトアップ後も加速が鈍らない。
最高速付近で車体に最も不安を感じたのは、2スト空冷トリプルの750SS。加速は素晴らしいものの、速度が上がるとフロントまわりが落ち着かず、ふとしたきっかけでウォブルが発生する。
逆に高速域で最も車体が安定していたのは、どっしりと表現しくなるCB750フォア。
ただしこのモデルは、仕様変更のたびにマイルド化が図られているようで、最高速度は2気筒のTX750と同じだった。
なお速度計の精度が非常に高かったCB750フォアに対して、Z2はかなりアバウトで、最高速付近では+20㎞/h以上を指していた。
ゼロヨン加速は「マッハ」
トルクが乗ってくるとフロントが持ち上がるので、ちょっとした怖さは感じるけれど、レーサーを思わせる排気音と振動を伴いながら、トップタイムをマークしたのは750SS。
それとは正反対の性格がスズキのGT750で、車体には抜群の安定感があるのだが、エンジン特性は大人しく、タイムは5台の中で最下位となった。
僅差で2/3位のタイムを記録したZ2とCB750フォアで、興味深かったのはスタート時の挙動。
右に左にと後輪が滑り、よろめきながら加速するZ2に対して、CB750フォアが残したスリップ跡はZ2より少なめ。
TX750は、バランサーの効果は十分に体感できるが、加速の印象はいまひとつ希薄。
筑波サーキット最速のナナハンマシンは?
DOHC4気筒という言葉には、何となく、神経質なイメージを持つ人がいるようだが、Z2のエンジフィーリングは優しくて滑らかで、非常に扱いやすい。
それは車体にも言えることで、どんな状況でも気難しさやクセは一切感じなかった。あえて問題点を述べるなら、フロントブレーキの甘さとシフトタッチの悪さだろうか。
とはいえZ2の乗り味は、よくも悪くも荒っぽかった、これまでのカワサキとはまったく異なる洗練された印象で、総合性能ではCB750フォアを超えたのではないかと思う。
もちろん、ベーシックモデルとしてのCB750フォアの魅力は依然として健在で、ライポジのまとまりも非常にいい。そんなCB750フォアでサーキットを走って気になったのは、高速域での強すぎる直進安定性やアクセルの重さ。ただしクラッチ操作の軽さは特筆すべきものがあって、これは市街地やツーリングでは有効な武器になる。
そして市街地やツーリングと言えば、GT750とTX750は、そういう場面での楽しさや快適性、利便性などを追求したモデルで、サーキットでは苦戦を強いられることになった。
まずGT750で速く走ろうとすると、車重の重さやライポジの大柄さ、前後サスの柔らかさなどがネックになるのだが、最大の問題はバンク角の少なさ。ただし、ギヤチェンジが横着できるほどの低速トルクの太さや、5台の中でナンバー1の静粛性は、GT750特有の美点と言えるだろう。
TX750は2台のカワサキに次ぐタイムを記録したのだが、サーキットではやっぱりパワー不足を感じ、車体の信頼性も抜群ではなかった。とはいえ、車重の軽さや取り回しのよさ、大排気量ツイン独特のフィーリングが満喫できるという面では、当然、このバイクにも価値はあるのだ。
さて、最後に750SSの印象を述べると、このモデルがトップタイムを記録できた理由は、立ち上がり加速の鋭さとバンク角の深さである。ハンドリングは安定しているとは言えないし、ギヤチェンジの回数は他機種より多かったし、公道では大きめの振動と排気音が疲労につながりそうだが、タイムアタックをしていると、そのあたりは取るに足らないことと思えてくる。
いずれにしてもZ2と750SSは、クラストップの速さという共通点を備えながらも、同じメーカーが作った同じ排気量とは思えない、対照的な資質を備えていた。
※本記事は『モーターサイクリスト1973年12月号』旧車二輪専門誌『モーターサイクリストCLASSIC2019年4月号』の記事を再構成したものです。
(まとめ●中村友彦/モーサイ編集部・上野)