ヒストリー

アメリカ大陸を駆け抜けたホンダ154ccツイン ベンリィツーリングCA95の知られざる功績(前編)

アメリカンホンダモーターカンパニーが米ロサンゼルスに設立された1959年の秋、ホンダは米国市場向けモデルのひとつとして、CA95という154㏄並列2気筒車を発表した。
いわゆる“ホットモデル”ではないCA95だが、好ましい小排気量車として1960年代末まで長らく市場にとどまったモデルである。

文●矢野光二 写真●高倉 康

取材協力●テッズスペシャルモーターサイクルワークス TEL:0467-58-7713  http://www.ted-spl.com/

※本記事は別冊Motorcyclist2011年9月号に掲載されていたものを再編集しています。

 

アメリカ市場進出の先兵役

近年の2輪車専門誌で最もよく使われている言葉は、「名車」の称号ではなかろうか。
その中で取り上げられるモデルに「迷車か?」と思われるものもなくはないが、1959年に発表されたホンダベンリイツーリングCA95(154㏄)は、どのように視点に工夫を凝らしたとしても、名車のスタンスで語ることが難しいモデルであろう。

ホンダ製初代スーパースポーツとして、華々しく同時代にデビューしたベンリイスーパースポーツCB92/CB95と比較すると、対米輸出仕様モデルとして用意されたCA95(そして125㏄版のCA92)は、小型のツーリングモデル、もしくはコミューターという地味な役回りなこともあり、海外市場における注目度はCB92/CB95よりもはるかに低かった。

この年、アメリカ現地法人を設立したホンダは、彼の地の2輪専門誌を通して、熱心にホンダ製2輪車をアピールしていた。
だが、CA95が記事として雑誌の誌面に取り上げられることはほとんどなく、広告のなかに登場すること自体も稀であった。
第二次大戦以前から、4輪自動車の普及が日本とは比べ物にならないほど進んでいたアメリカでは、戦後モーターサイクリストたちの2輪車への関心の有り様は、スポーツやホビーの道具としての見方がほとんどであった。
たとえニューモデルと言えど、コミューター色の強いCA95をわざわざ限りある誌面を割いてまで紹介するメディアが少なかったのは、ある意味当然のことだったと言えよう。

●米サイクル誌1959年9月号に出稿されたホンダの広告。同年のマン島T.T.初挑戦で手にした、125㏄マニュファクチァラーズチームプライズの栄誉ととともに、初のスーパースポーツモデルであるCB92をメインに紹介。下の段ではダブルシート仕様のツーリングモデルのC92、C71、C76が掲載されていた

またホンダにしても、ホンダ車普及の戦略商品でもあったスーパーカブシリーズこそ盛んに広告に登場させてはいたが、上述の現地事情に沿って広告の主役となる機会が多かったのはCB92/CB95、そして1960年に登場するCB72といったスーパースポーツモデルたちであった。
次第にアメリカ各地に増えていくことになる、ホンダを扱うディーラーの店頭で実際に見て触れる以外、アメリカのモーターサイクリストたちが発売されて間もないころのCA95に接する機会は少なかったであろう。

スポーツモデルでなかったゆえに注目度こそ低かったといえ、アメリカ市場に投入された真新しいCA95を見た現地の人々は、少なからずそのスタイリングの斬新さと精緻なメカニズムに、驚きの声を漏らしたに違いない。
仏像の持つ美をスタイリングのモチーフにしたという伝説を持つCA95の角張った姿は、美しい・美しくないという評価はさておき、海外製品のコピーばかりという有難くない評価が下されがちだった当時の日本車のイメージを、大きく変えるものであった。

事実、1956年から開発をスタートし、1957年10月国内発売されたドリームC70をはじめとするこの時代のホンダ製4サイクル並列2気筒は、現代に至るまでのホンダ製モーターサイクル用エンジンの基礎を確立したユニットであり、日本製モーターサイクルの典型を確立したユニットとまで言っても過言ではないだろう。

C70で確立された技術のひとつである、生産性の高いアルミダイキャスト製の上下分割式クランクケースを持つC90は、1958年に国内販売モデルとして初登場している。
125㏄版ツインの第一弾として生み出されたC90は、セルスターターを装着してほしいという市場からの要望に応じて、約半年という短いスパンを経て後継モデルのC92に後を託している(1959年2月発売)。

●C90系ツインエンジンはコンパクトに仕上げるように腐心して設計されていた(全幅は275㎜)。角張ったスタイリングデザインへのこだわりは細部に至り、リヤサスペンションユニットまで四角基調でデザインされていたのが、C系ツーリングモデルの特徴であった

C92はその登場の前年(1958年10月)にデビューしていた150㏄版のC95を125㏄化したモデルで、単なるC90のセルスターター追加仕様にとどまらないフルモデルチェンジであった。
外観を一べつしての判断は難しいかもしれないが、クランクケース、クランクシャフト、ケースカバー、ACGなどエンジン主要構成部品はほとんどがC90とは別物であり、ストレススキン=応力外皮構造のプレスフレームも同様にC92/C95用に新設計されたものである。

250~305㏄クラスに展開されたC70系に比較すると、小排気量の125~150㏄クラス用に開発されたC90系エンジンは、サイドカムチェーン方式の3点支持メインベアリングを持つクランクシャフト、ウェットサンプの潤滑方式、変速機のカウンターシャフト側にクラッチを備えるなど、部品点数の簡素化や機関重量の軽量化、そしてフリクションロス低減による高回転化を志向した構成を持っているのが特徴であった。

 

高品質がホンダ製バイクのイメージ向上に

ところで、CA95が登場した当時、アメリカ市場におけるCA95のライバルはハーレーダビッドソン製2サイクル単気筒、BSAバンタム、トライアンフタイガーカブなどであったが、機械としてのCA95のクオリティはそれらよりもずっと高かった。

パーキングスペースに染みを残すことのないオイルタイトな造り、頻繁なメンテナンスサイクルをユーザーに強いることのない信頼性の高さ、野蛮な乗り物という印象を他者に与えない静かな排気音……。
ならず者のおもちゃというアメリカ人のモーターサイクル観を覆したと言われる、ホンダの“ナイセストピープル”キャンペーンの主役は言うまでもなくスーパーカブだったが、CA95をはじめとするアメリカ向けツーリング2気筒モデルたちも、少なからず彼の地のモーターサイクルのイメージ向上に貢献したことであろう。

国内市場のC90系の主力モデルであるC92シリーズは、数多くの設計・仕様変更を受けながら1965年発売のCⅣ92まで存続することになったが、CA95も同様にロングライフを誇り、1967年までアメリカ市場で販売され続けた。

●C92/C95国内仕様のプレスハンドルに対し、メッキ仕上げのパイプハンドルを備えるのが、輸出市場向けのツーリング2気筒モデルの特徴であった。なお国内市場でもパイプハンドル仕様のCⅡ92が用意され、1963年のCⅢ92以降はプレスハンドルが廃止されることになった

●撮影車両は、800番台というエンジン番号を持つ、貴重な初期型CA95の未再生原型車である。
カラーリングは125㏄版のCA92に用意されたスカーレットレッド、ブルー、ブラックのほか、CA95にはホワイトも用意されている。
初期型モデルは1959年のCA95-100001から1962年までの生産分であり、1963年(CA-3106641)から1966年までは後期型モデルとなる。

冒頭に記したように、CA95はいわゆる名車の系譜に登場するようなモデルではない。
しかし、アメリカ市場本格進出の一翼を担い、高品質なホンダモーターサイクルのイメージを彼の地に浸透させるきっかけとなったことの意義については、誇るべきCA系の功績と言ってもいいだろう。

 

→:後編はコチラ

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