ヒストリー

【’90s名車列伝】“ライダーを育てるバイク” ドゥカティ・900SS 唯一無二の魅力を探る(後編)

●試乗用としてパワーハウスから借用した900SSは’94年型。
この年式のフレームカラーは本来ブロンズだが(’89~90年型は赤、’91~92年型は白)、オーナーの好みでシルバーにペイントされている。

※本記事は別冊Motorcyclist2011年9月号に掲載されていたものを再編集しています。

 

自分の中の感覚が研ぎ澄まされすべての神経が活性化する

1年くらい前から、“人生で一度は本気のスーパースポーツを買って、速さを追及してみたい”と考えるようになった僕は、今年の5月にトライアンフのデイトナ675を購入した。
それから約3ヵ月が経過し、デイトナのある生活はそれなりに充実しているのだけれど、パワーハウスが手がけた900SSに乗った今現在は、この企画をあと3ヵ月早くやっていれば……と、やや後悔している。
僕はデイトナを通して、昨今のスーパースポーツに少なからぬ疑問を持つようになったのだが、900SSはそれに対する答えを持っていたのだ。

●速度/回転計はベリアで、’95年型からは油温計が追加された。ノーマルベースのハンドルはタレ角を増やしている

●昨今のスーパースポーツとは異なり、そこそこの肉厚が確保されたシートは、長距離走行も快適にこなす。シングルシートカバーは’92~97年の標準装備品

久しぶりの900SSでまず感心したのは、走り出した瞬間から、自分の中のあらゆる感覚が研ぎ澄まされてくることだった。
頭でそう思っただけではなく、目、耳、手、足、腰、尻などに伸びた神経が、このバイクを理解しようと活性化し始める。
こういった感触は、デイトナを筆頭とする今どきのスーパースポーツではなかなか得られないのだが、なぜ得られないかを改めて考えてみたところ……。

話は簡単だった。
今どきのスーパースポーツは特に感覚を研ぎ澄ませなくても、ある程度の速度までは簡単に速く走れちゃうのである。
例えば峠道でコーナーに入っていくとき、900SSの場合はブレーキングと倒し込みのポイントをきちんと考え、適切なタイミングでシフトダウンしてエンジン回転数をオイシイ領域に保とうという意識が自然に芽生えるが、今どきのスーパースポーツはかなり無造作にコーナーに入っても、シフトダウンをさぼってエンジン回転数が急速に下がっても、何食わぬ顔でコーナーをクリアしてしまう。

もちろん、技術的に優れているのは今どきのスーパースポーツのほうだろうし、それだってサーキットでタイムを切り詰める場合は、感覚を研ぎ澄ませてきちんとした操作を行う必要があるんだけれど、僕は常識的な速度で走っている段階で、操る手応えを存分に感じさせてくれる900SSのほうが、一般公道を走るバイクとしては正しいと思った。

●空冷Lツインの最高出力は、初代:84hp、2代目:73hpと公表されたが、これはクランク軸出力と後輪出力の違いであって、実質的には同一。今回の試乗車はコスワース製φ94㎜ピストンで排気量を904→944㏄に拡大。また、キャブレターはFCR、マフラーはパワーハウスオリジナルに変更されている

●足まわりはオーナーの好みで全面刷新。前後ショックはオーリンズで、マグホイールはドゥオーモ(F:3.50×17、R:5.00×17)。削り出しのステップはカスノ製

ん、この書き方だと旧車全般を褒めているみたいか。
まあ確かに、900SSには旧車に通ずる魅力もあるのだが、’90年代生まれのこのバイクには、’80年代以前の旧車で時として感じる神経質さや恐怖感、重ったるさみたいなものは一切ない。
それどころか、900SSには乗り手を導いてくれるような資質があって、“その扱い方じゃダメ”、“もっと突っ込んでも大丈夫”、“さあもう開けていいよ”といった情報が逐一伝わってくるものだから、とにかくコーナーを攻めるのが楽しくてしようがなくて、見通しのいい峠道ではついついスピードが上がってしまう。

ついついスピードが上がってしまうというのは、今どきのスーパースポーツではよくある話だけれど、900SSの場合は無節操に速いのではなく、まず乗り手の感覚が研ぎ澄まされ、それに応えるようにマシンがさまざまな情報を供給し、結果的にスピードが上がっていくという経緯がはっきりしているのが素晴らしい。
このバイクなら、安全に楽しく、速さを追求していけそうで、だからこそ今現在の僕は、後悔の念にかられているわけである。

もっとも、今回試乗した900SSに僕がすこぶる好印象を抱いた背景には、本来の資質以外にパワーハウスによるチューニングがあって、ノーマルの900SSはもう少し朴訥で硬派な乗り味だった気がする。
だからまあ、もし3ヵ月前に戻れたとしても、この900SSと同じバイクが買えるわけではないのだが……。

程度のよさそうな中古の900SSを60万円ほどで購入し、完全整備に30万円ほど投入したとして合計90万円。
デイトナの乗り出し価格は138万円だったから、138−90=48万円で、それだけの金額があれば、自分好みのカスタムがいろいろとできる。
と言っても、デイトナの購入は現金一括ではなく54回ローンなので、これはなかなか実現が難しい計画なのだが、思わずそんな皮算用をしてしまうほど、僕は900SSの魅力にシビれてしまったのだ。

 

ドゥカティ900SS 主要諸元

●エンジン 空油冷4サイクルL型2気筒OHC2バルブ ボア・ストローク92×68㎜ 総排気量904㎠(cc) 圧縮比9.2±0.5 燃料供給装置キャブレター 点火方式トランジスタ 始動方式セル

●性能 最高出力73ps/7000rpm 最大トルク-

●変速機 6速リターン 変速比①2.466 ②1.764 ③1.350 ④1.090 ⑤0.958 ⑥0.857 一次減速比2.000 二次減速比2.466 

●寸法・重量 全長2030 全幅730 全高1125 軸距1410 シート高780(各㎜) キャスター25° トレール103㎜ タイヤⒻ120/70ZR17 Ⓡ170/60ZR17 乾燥重量183㎏

●容量 燃料タンク17.5ℓ オイル3.5ℓ

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モーサイ編集部

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