ヒストリー

電動アシスト自転車の先祖? 最近話題になったホンダ・ピープルってどんなバイク?

 突然だが、皆さんは「ホンダ・ピープル」というモデルをご存知だろうか? ピープルは1984年に発売された原動機付自転車だが、この35年前にデビューしたモデルがいまにわかに話題を集めているという。
 いったいどんなモデルなのか、話題を集める発端となったオーナーに話を聞きつつ、ピープルの魅力に迫ってみよう。

report:日暮大輔 写真提供:ホンダ/門前秋良さん

 

バタバタの再来? 正真正銘の“原動機付自転車”

 そもそもピープルとはいったいどのようなものなのか簡単に説明しよう。ホンダ・ピープルは1984(昭和59)年2月22日に発表され、東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・京都・兵庫・和歌山・奈良の9都府県は3月15日、その他の道県では4月1日より発売された第一種原動機付自転車(以下、原付と表記)である。
 ホンダが’76(昭和51)年に発売して大ヒットを記録し、後のHY戦争のきっかけともなったロードパル同様、これまでバイクに親しみにくかった女性ユーザー層をターゲットとしていた。

こちらが発売当時のピープルのカタログ。気軽に楽しめる乗り物であることを前面に押し出しているのが伺える。

 特徴的なのがその車体構造。当時主流となっていた原付は、タクトやパッソルなどウォークスルータイプのスクーターが主流であったが、ピープルは自転車と同方式のパイプフレームに重量約4kg・排気量24cc(内径32.0mm×行程30.0mm)の超小型2ストロークエンジンを搭載する「ペダル付き原動機付自転車」、つまりは欧州では一般的なモペッドに該当する車両となっていた。

 このエンジンは4000回転でわずか0.7馬力を発生するという非力なもので、ペダルを漕ぎつつスロットルレバーを操作することで始動し、リヤタイヤに押し付けられているドライブローラーによって動力を伝達する方式を採用。
 あくまでエンジン動力を補助的に使用する構造で、ホンダが創業期に販売していた自転車の補助動力エンジン(通称バタバタ)の再来といってもいい。

右ハンドルに取り付けられているスロットル/コントロールの各レバー。

ピープルのエンジン始動図(ピープルのサービスマニュアルより)。始動時にスロットルレバーを押すと同時にコントロールレバーが「走行」状態になり、ドライブローラーがリヤタイヤに接触する。逆にコントロールレバーを「切」の位置に合わせると、ドライブローラーがタイヤから離れ、同時にキルスイッチがオフになりエンジンが停止するという仕組みだ。

 

 だが、時はまさに空前絶後のバイクブームが過熱し始めたという時期。毎月のようにニューモデルが投入され二輪専門誌を賑わせる中で販売されたが、日本国内ではもはや時代遅れといっても過言ではない構造のピープルは日の目を浴びることもなく、販売後数年でひっそりと生産を終了。
 “使いやすく新しいカテゴリー”の創出を目指し、自転車に近い軽便さを持ったパーソナル・コミューターとして販売されたが、バイクブームという時代の波に飲み込まれてしまった、ある意味不遇と言っていいモデルなのである。

 とはいえ、「自転車の運転を補助する」というコンセプトは消えることなく、後継車ではないもののホンダ・ラクーンなどの電動アシスト自転車が誕生していったのだから、ピープルは電動アシスト自転車の祖先と言ってもあながち間違いではないのかもしれない。

 

SNSで突如として話題を集め、テレビにも取り上げられた!?

 これまで不遇とも言える扱いだったピープルだが、ここに来て突如注目を集める事態となっているのだという。一体全体何があったんだ!?
 その発端となったのは、Twitterユーザーである門前秋良さん(https://twitter.com/Amommae?s=17)の投稿。数カ月前にピープルを入手したという門前さんが給油しようとガソリンスタンドを訪れたところ、店員さんに「セルフスタンドでは携行缶に給油できませんよ」と言われたのだという(※編集部注:セルフでもスタンドによっては携行缶への給油を受け付けてくれる場合もある)。

門前さんがTwitterにアップした画像(門前さん提供)。

 「や、これは原付で、燃料タンクに給油したいだけなんですけど……」と説明して事なきを得たが(というか、そもそも携行缶を持っていなかった)、その様子をTwitterに投稿したところ瞬く間に拡散して話題に。ついにはテレビ局からも取材を受け、あれよあれよという間に朝のニュースに取り上げられたのだとか。

 Twitterのコメントには「真の原動機付自転車ホンダピープルだ!」、「ソレックスとピープルでツーリングして職質されましょう!」など多くの感想が寄せられており、門前さんは「何が起こるかわからないものですね」と、その反響の大きさに驚いていた。しかし、それはこれまでほとんど話題に上ることのなかったピープルも同様だろう。

 

通行人に「二度見される」ほどのインパクト

門前さん所有のピープル。どこからどう見ても自転車である。
車体カラーに合わせたリヤのボックスもいい味を出している。

では、いったいその乗り味とはどのようなものなのか?
オーナーの門前さんによれば、「排気量が24ccしかないとはいえ、原付として考えるのならばいくら何でもスピードが遅すぎる」のだそう。確かに最高速度は時速18kmと、普通に自転車を漕ぐのと大差ないスピードしか出ない(実際にはもう少し出るようだが、そもそもスピードメーターがないので計測ができない)。
 特に坂道などでは搭乗者がペダルを漕いで逆アシストしてやらないと登り切れないなど、エンジンの非力さに由来する使いにくさは数多いのだという。

 ただし、「信号待ちのたびに通行人や隣のクルマのドライバーからガン見されます」と言うように、珍しさからの注目度はかなりのものであるようだ。
 確かにナンバー付きの自転車(?)が公道を走るという珍妙な光景に遭遇したら、だれだって思わず二度見してしまうだろう。それだけでも、ピープルに乗っている意味はあると言える……のかもしれない。

ちなみに門前さんはピープルの他に、プレスカブ、パルディン、CG125などなかなかレアな車両もお持ちだ。
このあたりの詳細は後編にて詳しく紹介しよう。

 

 今後なかなか味わうことができないペダル付き原動機付自転車であるだけに、これからピープルに乗りたいという方にはぜひ頑張っていただきたいと思うのである。いつしか「ピープル軍団がパレードランを実施!」みたいな話題で盛り上がりたいものだ。

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