バイクの絶対性能を指し示す数値として、昔も今も一番分かりやすいのが「最高速」。200km/hの壁は1969年のホンダCB750FOURが超えたとされるが、以降300km/hの壁は数十年間、市販車の前に立ちはだかった。だが……。
report●三上勝久
そして、破られた300km/hの"壁"
1989年、ミスターバイク誌の企画で実施された、佐藤信哉+スズキGSX-R750Rによるドイツでの公道300km/h達成を皮切りに、究極への挑戦が日本のバイク乗りの大きなテーマとなっていった。
今ではスタンダードでも(場所さえあれば)楽に出すことができる300km/h弱というスピードだが、当時はまさに未知の世界。
ロードレース世界選手権用のGPマシンならともかく、公道用の市販バイクでは200km/hを超えるのもやっと、という時代だったのだ。

●MC1990年8月号「谷田部最高速テスト」より。手前からスズキGSX-R1100(262.02 km/h)、カワサキZZR1100(290.50km/h)、ヤマハFZR1000(272.93km/h)、ホンダCBR1000F(251.62km/h)。いずれも当時のフラッグシップだ
当時の本誌では「ゼロヨンGP&マックスパワーグランプリ」という企画を実施しており、この企画で様々な高性能マシンが生まれていった。
ミハラスペシャリティによるFJ1200、ワークス・GSX-R、そしてドクターSUDAのファインチューン・ゼファー、ツバサコーポレーション・VMAXターボなど数々のモンスターマシンが生まれたが、その中で本誌とドクターSUDAで取り組んだのが「ボンネビル・プロジェクト」だった。
それは、アメリカ・ユタ州ソルトレイクで開催される「ボンネビル・スピードチャレンジ」に出場し、公道仕様のカワサキZZR1100の最高速記録を達成しようというもの。

●1052㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは147馬力/11.2kgmを発揮。ヘッドライト下に設定された左右非対称形状のラムエアエアダクトがただ者ではない雰囲気をかもし出していた。実際、超高速域でラムエア加圧は非常に有効で、今に続く技術となっている
目標は200mph(320km/h)。このプロジェクトは谷田部自動車試験場で始まったが、高速周回路ではタイヤのトレッド剥離など未知のトラブルが頻発。

●フィルムカメラをタンクの上に固定し、壁のようなバンクを抜けたストレートでフルスロットルを当てながら、ライダー(宮崎敬一郎)自らがシャッターを押す……。そうして撮影されたメーター読み300km/h超えの衝撃的カット

●別日のテストではタイヤの表面が剥離した
95年に310・35km/hを達成、MPS/Gクラスにて世界記録を更新したものの、その道は平坦なものではなかった。
ZZR1100とブラックバードの間に切り込んだのはハヤブサだった
こうした最高速追求の流れを受け継いで世にリリースされたバイクが、99年に登場したスズキGSX1300Rハヤブサだ。

●「アルティメットスポーツ」をコンセプトに175馬力を発揮する1298ccエンジンを剛性と空力性能の高い有機的なボディに搭載。比較テストでは例外なくZZR1100とCBR11000XXスーパーブラックバードを圧倒。衝撃を与えた
それまで最速バイクと言われていたホンダCBR1100XXスーパーブラックバードが維持していた300km/hを大きく上回る312km/hを達成して世の度肝を抜き、一躍トレンドセッターとなっていく。

●MC1999年4月号「ハヤブサ全方位テスト」より。スペイン・イディアダ(ハイスピードサーキット)にて。上の実測値を出したときには、メーター読みで340km/hを超えていたとか

●96年に最速より最高であることを標榜して登場したホンダCBR1100XXスーパーブラックバード。1137㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは当時最高の164馬力(トルクは12.7kgm)で登場。本誌テストでは300km/hに届かなかったものの出来栄えは最高
最速王の座を奪還すべくカワサキからもニンジャZX-12Rが登場するが、同時にヨーロッパで最高速規制が始まり、その挑戦は下火になっていく。

●MC02年4月号「ZX-12R新旧対決」より。00年に登場した初代の181馬力から178馬力へ最高出力こそデチューンされた02年型だが、外装から足周り、各部セッティングまで140か所に変更を受け、完成度は高まった。海外では300km/hも記録。なお、同時期に155馬力を発揮するZZR1200も登場
2001年には最高速度を300km/h以下に抑えるリミッターが採用されるなど、メーカーによる最高速ブームは鎮静化していったが、バイク乗りのスピードの追求は収まることはなく、16年にはカワサキ ニンジャH2Rがトルコで400km/h! というとてつもない公道最速記録をたたき出してしまった。
日本でも最高速への夢は今でも続いており、13年にはホンダの社員有志によるチームがボンネビルで650ccクラスでの最高速記録(170・828mph)を達成。
やはりスピードは、いつまでたってもライダーの心を刺激してやまないのだ。
→:次回【平成バイク大図鑑6】アメリカンブーム、それは速さへのアンチテーゼだったのか?
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