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「4ストVT250Fは2ストRZ250を超えていたのか?」1982年発売当時の試乗レポートから読み解く

VT250F RZ250

ホンダ VT250F、1982年デビュー当時の評価とは

4ストローク90度V型4気筒のGPマシン・NR500の技術を継承したスポーツモデルとして、1982年に発売されたホンダ VT250F。
新開発の水冷4ストローク90度V型2気筒エンジンを搭載し、NR500同様に「打倒2スト」を目指したモデルだった(NR500での世界GP制覇はならなかったが)。

市販車250ccクラスで「倒すべき2スト」とは、1980年に発売され一世を風靡していたヤマハ RZ250(最高出力35ps)。性能でも販売台数でもRZ250を超える、それがVT250Fの宿命だったのである。
VT250Fは1982年6月発売からの実質7ヵ月で3万台以上の登録台数を達成し、またたく間にヒットモデルとなったのだが、今なお語られる「4ストで2ストに勝つ」については当時どのような評価だったのだろうか?

『別冊モーターサイクリスト1982年7月号』では発売直後のVT250Fをテストすると同時に、ライバルRZ250との比較も行っている。以下、当時のレポートを紹介しよう。

「NR500のV型4気筒を半分に割る」という発想から生まれたVT250Fの水冷4ストローク90度V型2気筒エンジン。最高出力は35psで、ヤマハ RZ250と同値。

ホンダ VT250Fは「1万3000rpm弱で170km/hのスピードメーターを振り切った!」

うわさのスーパークォーター、ホンダ VT250F。水冷90度Vツインエンジンは35psを出し、最高速は推定165km/hという。軽量フレームにプロリンクサス、メーターバイザーと呼ぶ小型カウルなど装備も新鮮だ。

(1982年)6月10日から発売されたホンダ VT250F。真紅に塗られたフレーム、ウインカーと一体の小型カウルが目を引く。弓状にソリを見せるシートやサイドカバーからテールへ流れるラインも斬新だ。フロント16インチホイールとインボードディスク、リヤのプロリンクサス、ジュラルミン鍛造製ハンドル、バックステップなど、VTのセールスポイントを数え出したらキリがない。クラッチも油圧式である。

エンジンは水冷4ストローク90度V型2気筒。ボア・ストロークは60mm×44mmという超ショートストロークで、35ps/1万1000rpmという高回転高出力を達成。変速機はクロスレシオの6段で、遊星ギアを使ったシフト機構を採用している。すべてが軽量コンパクトを狙った設計であり、乾燥重量は149kgだ。4ストローク2気筒のそれも水冷ということを考えれば、異例の軽さといえよう。カラーリングは写真のブラックのほか、ホワイトとシルバーがある。

ただ者じゃない……。そう感じたのはタコメーターを見たときだ。だれかが「ヒエーッ! レッドゾーンは12500rpmからじゃないの……」と驚きの声を上げた。
VT250Fの最高出力は35ps/1万1000rpm。それなのにレッドゾーンは1万2500から1万3300rpmという高い回転域に設定されている。ジェット戦闘機のイメージをデザインベースにしたという精悍な車体スタイルに加え、このタコメーター。

NR500(世界GP参戦マシン)の末弟という性格づけで開発したというこのVTである。試乗コースは雨が降ってはいるが、鈴鹿サーキット。このVTにはピッタリの舞台、というわけで思いっきり回すことにした。

タコメーターのレッドゾーンが12500rpmから始まることに驚く。スピードメーターの目盛りは170km/hまで刻まれる。

1速でめいっぱい引っ張るとタコメータ一の針はクルリと回転し、1万3000rpmを軽くオーバー。2速へ入れると一瞬、9000rpm近辺に落ちるが、すぐまた1万3000rpmを超し、スピードは90km/h。3速、4速と、どのギヤでも1万3000rpmをオーバーする。面白いようによく回るエンジンである。

スプーンカーブを立ち上がり、立体交差上の130R手前では5速で1万3300rpm、速度は160km/hちょうど。そして下り坂、追い風という条件のホームストレッチではトップギアの6速に入れてピッタリ伏せていると、1万3000rpm弱で170km/hのスピードメーターを振り切った!
約1時間、常時1万〜1万3000rpmオーバーで鈴鹿サーキットを走ったが、水温計はグリーンゾーンの中央より少し低い温度を示したまま。エンジンはなんの変調も見せないし、振動もグリップとフートレストに少し出るだけだ。

本田技術研究所の野末取締役は、「慣らしが進むほど回転の上がる不思議なエンジンでしてね。開発途中でタコメーターのレッドゾーンを1000rpmほど上へ設定し直したほどです」という。1万1000rpmが出力のピークと発表されているが、この回転を超してもグイグイと加速していく感じで、パワーの落ち込みなどまったく感じられない。「完全に慣らしをすると、36ps/1万2000rpmぐらいになるかもしれません」ともいう。

4本のカムシャフトや2本のカムチェーンを主としたフリクションロスは想像以上に大きいということだ。たとえば、組み上げたばかりのエンジンと4時間程度の慣らし運転を終えたものでは2〜4psも出力が違ってくるそうである。
カムシャフト駆動にはサイレントチェーンではなく、ローラーチェーンを採用している。これもサイレントだと2〜3psもパワーロスしてしまうためだという。

ともかく、まったくストレスなく1万3000rpm以上回ってしまうエンジンである。最大トルクは1万rpmで発生する(本当はもっと上?)が、ちょうどこのあたりからエンジン音は金属質のGPサウンドに近いものとなる。加速はグンと鋭くなり、強力な引っ張りが1万3000rpmまで続く。つまり、1万〜1万3000rpmがVTのパワーバンドというわけで、一般市販車として例を見ないほどスポーツ指向の強いエンジンといえる。

フロントブレーキはCBX400Fと同様、制動力も特筆に値する

ライディングポジションは、緩い前傾フォームのとれるもの。一般道を50km/hで走っても苦しいことはない。後退したステップや低めのシート、ジュラ鍛製ハンドルなど、市街地からワインディング、あるいはサーキットまで無理なくこなせる位置にある。
雨の鈴鹿サーキットであったが、恐怖感もなく走れたのは、ポジションのよさに負うところが大きい。ハンドリングは軽く、素直。S字での切り返しなど、体のアクションを最小に抑えることに苦心したほどだ。アクションが大きすぎると、走行ラインが乱れてしまうためで、軽量車には共通の注意点だ。

6段の変速機は、新方式の遊星ギア式チェンジ機構を備えている。1万2000〜1万3000rpmで急いでシフトアップすると、ギアが1回で入らないこともあったが、これは対策されてくるはず。通常走行では問題なくスムーズなチェンジであった。

フロントブレーキはインボードディスク。パッドもディスクもCBX400Fと共通である。CBXの18インチに対し、こちらは16インチホイールであり、そのぶんだけでも効きは強烈。140〜150km/hからの減速にもまったく不足はなく、エンジンブレーキの強力さと相まって、早く止まりすぎてしまうほど。
また、フェンダーステーを兼ねたスタビライザーもよく効いており、急制動でもフロントフォークがよじれる感じはほとんどない。リヤの140mm径ドラムブレーキは効きすぎることもなく、フロントに対してほどよいバランスであり、使いやすいものだ。

235mmディスクに片押し2ピストンキャリパーを組み合わせたフロントのインボードベンチレーテッドディスクブレーキ。冷却効果を上げるための大型エアースクープが設けられている。
リヤブレーキ140mm径のドラム。スイングアームは角パイプで、チェーン引きにはチェーンの交換時期を示す目盛りがある。

メーターバイザー(*)と呼ばれる小型カウルが付いているが、スクリーンが低いため風防の役目はしていないようである。反面、夏でも暑いことはないし、スピードをスポイルすることもない。オプションパーツとしてのセンターカウルとアンダーカウルも、風洞実験により、冷却に影響しない形状としている。アンダーカウルは、むしろクランクケース温度を下げる効果もあるという。

また、シート後部に装着するスポーツカウル(9800円)は、中にカッパなどを入れられる実用的なものでそのスタイルもVT開発当初のイメージスケッチをそっくり。オプションはほかに折りたたみ式のリヤキャリヤ(1万1200円)、ボディカバー(6800円)とかなりの点数がそろえられている。

乗り心地としては、ちょっぴり堅め。フロントフォークはエアー加圧式で、圧縮側100mm、伸び側40mmの計140mmストロークであり、小さなショックもよく吸収している。リヤのプロリンクサスは圧縮側85mm、伸び側15mm、計100mmのホイールトラベルである。こちらも路面の小さな凹凸は吸収するが、一般路で舗装のはがれたような所を走ると、尻にコツコツとくる。しかしVTはスーパースポーツである。ワインディングを攻めたときの安定感を思えば、不満はない。

*編集部註:当時日本ではカウルが認可されていなかったため「メーターバイザー」という扱いだった。

タンクはニーグリップしやすいように後方がえぐられた形状。シート前部も幅が狭く、タンクとのつながりは良好だ。
オプション装着車。ラジエーターの両サイドをカバーするセンターカウル(5000円)と、クランクケース下部に付くアンダーカウル(8000円)がある。

ホンダ VT250F vs ヤマハ RZ250「4ストが2ストを抜く!?」

250スポーツの人気を一身に集めているのがヤマハRZ250だ。そのRZとVTを一般道路で対決させてみた。

RZは発売当初よりもエンジンはだいぶ扱いやすくなっていた。5000〜6000rpmでの出力カーブがなだらかになった感じなのだ。とはいえ、7500〜8500rpmあたりの加速は強烈であり、その点はVTをしのぐ。ただ、9000rpmあたりではハッキリとパワーの落ち込みが感じられ、それ以上回しても速くは走れない、というエンジンなのだ。

その点、VTは前述したようにいくらでも回る感じのエンジンである。鈴鹿サーキットでは200kmほどしか走っていない車両だったが、RZと比較テストしたときは走行1000kmを超していた。エンジンは鈴鹿のときよりも高回転が回り、タコメーターは1万4000〜1万4500rpmあたりを示す。それでもさほどパワーの落ち込みがないのには恐れ入った。

低中速も明らかにVTのほうが扱いやすかった。VTはトップギヤ15km/h(1300rpmぐらい)でもなんとか走れるし、スロットルをゆっくり開けていけば、ギクシャクすることなくすぐに30、50km/hと、立ち上がってくれるのだ。40km/hくらいで走行中、普通ならトップギヤではムリに感じる坂道も、軽快に加速しながら登るほどの粘りがある。だから、法定速度の50km/hでツーリングすることも苦痛ではないのだ。
RZで40km/hといえば、2500rpm以下。まだまったく目覚めていない感じで、スロットルを開けてもボーッというだけ。その倍に回転を上げても、その感じはあまりかわらず、どうしても加速にはギヤダウンをしたくなる。

コーナリングはどうだろうか。RZは車体の寝かしぎわが少し重い感じであり、ちょっと力を入れる必要がある。それに対してVTはほとんど、曲がろうという意思だけでスッと倒れ込んでいく。そして動的に45度という深いバンク角で、怖いほど寝る。
VTのあまりにも素直なコーナリングは、逆に不安でもあるが、コーナリング中の安定性はよかった。路面の荒れたコーナーでも大きくハンドルを振られることはなく、まずまず安心していられる範囲だった。

RZはコーナリング中、サスペンションが前後ともフワつき気味で、安定感は今一歩というところ。うんと速いペースでサスを沈み込ませ、パワーをかけて回るといいようだが、それは一般的ではない。コーナー突っ込みでフロントブレーキを強くかけるとフォークのよじれる感じがあり、これもスタビライザーが欲しいところだ。

当然ホンダ社内でもRZ250と比較していた

サーキットを走らせたらどうだろうか。ホンダ社内で比較したところ、スズカでは乗り手によって順位が入れかわるので「いい勝負」らしい。栃木のホンダテストコースのハンドリングコース(小さなコーナーが多い)ではVTの勝ちとなったそうである。
どうも4ストロークのVTは、RZを抜いたようである。VT=39万9000円、RZ=35万4000円という価格差をもってしても、そのギャップは埋められるかどうか……。

とはいえ、RZには2ストローク特有の出カピーク付近での胸のすく加速がある。2ストロークファンにはたまらない魅力であり、それがこれまでRZをクオーターバイクの王座に君臨させ続けた大きな要素であろう。
総合性能の高さが生むだれにも乗れるVTか、いささか高度なテクニックを要求されるRZか、キミはどちらを選ぶだろうか。

レポート●大光明克征 写真●茂垣克己/八重洲出版 編集●上野茂岐

ホンダ VT250F主要諸元(1982年)

■エンジン 水冷4ストローク90度V型2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク60×44mm 排気量243cc 圧縮比11.0 点火方式フルトラ キャブレターVD6(29mm径相当)潤滑ウエットサンプ 始動セル

■性能 最高出力35ps/1万1000rpm 最大トルク2.2kgm/1万rpm 燃費45km/L(50km/h) 最小回転半径2.4m

■変速機 6段 変速比1速2.562 2速1.850 3速1.478 4速1.240 5速0.74 6速0.965 1次減速比2.82 2次減速比3.214 

■寸法・重量 全長2.000 全幅0.750 全高1.175 軸距1385 最低地上高0.160 シート高0.780(各m) 車重149kg タイヤサイズF100/90-16 54S R110/80-18 58S(ともにチューブレス) キャスター26度30分 トレール91mm

■容量 燃料タンク12L オイル2.5L 冷却水1.6L

VT250F(ホンダブラック)
VT250F(コルチナホワイト)
VT250F(プレアデスシルバーメタリック・オプション装着車)

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