ビギナー/ベテラン問わず支持され、約20年間続いたロングセラーモデル「VTR」


そしてVT系で最終のモデル系統となるのが1998年登場のVTR(MC33)だ。
鋼管パイプのトラス構造を持つダイヤモンドフレームに搭載されたエンジンのベースとなったのは、5速化と低中速トルク重視の設定となったVツインマグナの系統で、これをスポーツモデルらしくチューニングし、最高出力32ps/1万500rpm、最大トルク2.4kgm/8500rpmの性能を発揮。



車体は大幅な軽量化と部品点数、コスト削減を狙ったスイングアームのピボットレス構造などを盛り込んだ。登場当初、トラス構造のフレームや全体のフォルムから、ホンダ版スモール・モンスター(ドゥカティ)との声も多々聞かれたことを思い出すが、その扱いやすさ、使い勝手はまさにホンダならでは。エントリーユーザーからバイク便ライダーまで、幅広い人気を獲得した。42万9000円という手頃な価格もリーズナブルなものだった。


また2000年には排出ガス規制対応のエキゾースト・エアインダクション機構(二次空気導入装置)採用とともに、各部意匠を変更。同時に車体色とフレーム、スイングアーム、ステップ、ホイールの塗色の組み合わせを選べるカラーオーダープランも設定(標準価格+1.5万円)。
2002年にはシート形状、サス設定の見直しでシート高を20㎜ダウンし足着き性を向上させたほか、タコメーター、ハザードランプなどの装備追加で商品性をアップ。これがキャブレター仕様で最後のVTRとなった。
VTR(1998年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:32ps/1万500rpm 最大トルク:2.4kgm/8500rpm 燃料タンク容量:13L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】
全長:2040 全幅:720 全高:1050 ホイールベース:1410 シート高780(各mm) 車両重量153kg 乾燥重量:139kg タイヤサイズ:F110/70-17 R140/70-17
フューエルインジェクション採用と同時に、デザインも一新したVTR


そしてVTR最終型(JBK-MC33)となるのが2009年登場のインジェクション仕様だ。
従来のVD10型キャブレターから32ビットプロセッサのECUで燃料供給を制御するPGM-FI電子式燃料噴射へ変更。新設計エアクリーナーケース、O2センサーやキャタライザーの採用など吸排気系にも手が加わり、環境規制に適合したうえで最高出力は30ps/1万500rpmとなった。
ほか、より足着き性やライディングポジションに配慮したシート(シートレールも新設計に)、新デザインのサイドカバー/テールカウル/燃料タンクの採用など、使い勝手や商品性の向上も図っている。



結局インジェクション仕様のVTRは2017年に生産終了となり、この「最終型VTR」は意外に長い販売期間だったが、その間にシックなカラー&ブラックホイールのSTYLE-1と、鮮やかなカラー&ゴールドのホイール・ブレーキキャリパーとなるSTYLE-IIの設定、ハーフカウル版VTR-Fの追加、最低地上高を下げたローダウンモデルVTR Type LDの追加など、数多くのバリエーション展開を行っている。



これらの商品設定の仕掛けにも、長らくVT系モデルを販売し、かつ大事にしてきたホンダの親心を感じるのは筆者だけであろうか。
かくして、1982年に始まり35年という長きにわたったホンダVT系エンジンの活躍は、インジェクション仕様のVTRを最後に幕を閉じたのであった。
VTR(2009年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:30ps/1万500rpm 最大トルク:2.2kgm/8500rpm 燃料タンク容量:12L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】
全長:2080 全幅:725 全高:1055 ホイールベース:1405 シート高760(各mm) 車両重量161kg タイヤサイズ:F110/70-17 R140/70-17
レポート●阪本一史 写真●『モーターサイクリスト1999年2月号、2009年3月号』/ホンダ 編集●上野茂岐
2