唯一無二の独創的デザイン
1921年に創設された古豪であり、’40〜50年代の世界グランプリで数多くの栄冠を獲得した名門にもかかわらず、’60年代以前の日本では、決して知名度が高いとは言えなかったモトグッツィ。その風潮が変わるきっかけになったのが、’76年から発売が始まったルマンシリーズだ。残念ながら近年の同社は、この車名に特別な感情は抱いていないようだけれど、日本市場におけるモトグッツィの普及は、ルマンシリーズを抜きにして語れないのである。
モトグッツィの歴史を振り返る文章では、“唯一無二”や“独創的”などといった言葉がよく使われる。確かに、創業当初から’60年代中盤までは水平単気筒を主軸に据え、それ以降はほぼ縦置き90度Vツイン専業メーカーとして活動してきた同社の歴史は、唯一無二にして独創的だ。ただしモトグッツィには、よく言えば時代の流行に敏感、悪く言えば節操がないところがあり、世代ごとに印象が異なる’76〜91年のルマンシリーズは、その象徴と言えるのかもしれない。
そんなルマンシリーズの共通点を挙げるとすれば、同時代の850Tや1000SP、カリフォルニアなどと比較すると、見た目と乗り味がスポーティ、ということだろうか。もっとも’76年に登場した初代が、当時の流行を取り入れたカフェレーサースタイルだったのに対して、’78年のⅡ以降はスポーツツアラー的な資質が強くなっていくのだが、ビッグバルブやハイコンプピストン、大口径のデロルトPHF/Mキャブレター、低めのセパレートハンドルなどは、ルマン系全車に共通する要素。言ってみればこのシリーズは、世代によって姿形が異なるものの、本質はメーカーメイドのスポーツチューニング仕様だったのである。

文字盤のデザインは異なるが、ベリア製2連メーターと警告灯の配置は、先代に当たる750S3とほぼ共通。ステム上部にはフリクション式ステアリングダンパーが備わる。特徴的なビキニカウルは、後に同じデトマソグループだったベネリの900セイに転用された。