いまなお色褪せない、その魅力とは
’60年11月から発売が始まったCB72/77は、ホンダ製スーパースポーツの基盤を作ったモデルである。もちろん、その前年に登場した市販レーサーのCR71とCB92/95を抜きにして、同社の歴史を語ることはできないのだけれど、世界中のライダーにホンダ製スーパースポーツの魅力を知らしめたのは、レース参戦を意識した超高性能車でありながら、だれもが気軽に購入できることを念頭に置いて開発された、CB72/77だったのだ。
現代の視点で見れば、ごく普通の旧車? と思われそうな気がするが、’60年末から発売が始まったCB72/77は、当時の日本車では超が付くほど画期的なモデルだった。まず高度なチューニングを受けたエンジンの24psという最高出力が画期的だったし(同時代のライバル勢は15〜20ps前後)、GPレーサー譲りのパイプ式ダイヤモンドフレームやテレスコピック式フォークも、当時のホンダにとっては画期的。さらに言えば、当時の同社の特徴だった神社仏閣スタイルと決別したことや、2種類のクランク位相角が設定されたことも画期的だろう。改めて考えると、市販レーサーCR71や試作で終わったCB71のノウハウがあったとはいえ、よくぞここまで思い切った構成を取り入れたものである。
そしてそういった画期的な要素を満載したモデルは、動力性能に勝るライバルが他メーカーから登場すると、普通は徐々に色あせていくものだけれど……。抜群の潜在能力と耐久性を備えるCB72/77は、世界中のライダーから熱烈な支持を集め、8年にわたって好セールスを記録。生産期間中は細かな改良が数多く行われたものの、初期型から最終型まで、秀逸な基本設計は不変だった。

速度/回転計の針が逆回りで頂点を目指すコンビメーターは(当時はケンカメーターと呼ばれた)、CB72/77の特徴のひとつだったものの、後期型は両針とも時計回りに変更。’60/61年型は矢崎、’62年型以降は日本精機が製造を担当した。

“ドクロタンク”と呼ばれたCR71やCB92/95用と比較すれば、CB72/77のガソリンタンクはオーソドックスな形状。

ボルト2本留めのダブルシートはロングランを考慮した肉厚な設計。リヤショックは3段階のプリロード調整が可能だ。

’57年型C70をベースにして改良を続けてきた並列2気筒は、’60年型C72/77の時点で潤滑方式の変更(ドライ→ウェットサンプ)やクラッチの1→2次側への移動、クランクシャフトの見直しを実施。CB72/77ではツインキャブレターの導入や圧縮比の向上、クラッチの強化などが行われている。

ワンタッチでフロート室が脱着できるキャブレターは、ケーヒンPW22。なおボアアップ仕様として開発されたCB77のキャブはPW26で、最高出力は72+4.5psとなる28.5psだった。

取り付け位置が3カ所から選択できるステップは、現代の視点で見てもうれしい装備。エンジン右側のキックは前踏み式。

200㎜径のフロントブレーキドラムはシングルリーディングだが、’63年型以降はツーリーディング式に改められた。

フロントと同径のリヤブレーキドラムは当初からツーリーディング式。この時代はリヤが制動の要と考えられていたのだ。