革新の縦置きVツインスポーツモデル
ライラックの製造元として、’40年代後半から2輪事業への進出を開始した丸正自動車。’54年に発売したベビーライラックJF型の大ヒットと、’55年の第1回浅間高原レースにおける250㏄クラスの優勝を経て、日本全国にその名を轟かすこととなった同社は、’50年代後半になると来るべき時代を見据えて、縦置きVツインを搭載するニューモデルの開発に着手することとなった。こうした経緯を経て生まれたのが、’59年にデビューしたLS18/38シリーズだ。
第二次大戦後の日本では、300近くの2輪メーカーが産声を上げたものの、そのほとんどは’70年代を迎える前に消滅している。ライラックを生産していた丸正自動車は、“そのほとんど”に含まれるメーカーだが、歴史の歯車がうまく噛み合っていれば、’70年代以降も存続できたのではないか……という気が、個人的にはしないでもない。何と言っても、’40年代後半から約20年にわたって販売されたライラックには、先進的で独創的なモデルが数多く存在するのだから。
’48年型MLに端を発するライラックの歴史は、単気筒が主力だった’48〜58年、多種多様な縦置きVツインモデルを販売した’59〜61年(ただし一部の縦置きVツインは、’63年以降も細々と生産された)、一度目の倒産を経て、フラットツインに活路を見出した’63〜67年の3期に大別できる。こうやって改めて記してみると、今回取り上げる縦置きVツインが脚光を浴びた時代は、わずか数年しかないのだが、250㏄のLS18/38に加えて、300㏄のMF19/39、125㏄のCS28/CF40/C81をラインアップにそろえた当時の同社は、ライバル勢とはまったく方向性が異なる、独自の輝きを放つメーカーだったのである。

LS38の公称最高速度は140㎞/hだが、ヘッドライトにビルトインされる速度計のフルスケールは160㎞/h。左の黄色い警告灯はミッションが3速に入った際に点灯するものの、4速で点灯したほうが使い勝手はいいような……?

非常にユニークな形状のガソリンタンクは、ハンドル切れ角の確保、ニーグリップの行いやすさ、エンジンが発生するメカノイズの遮断、整備性などを考慮して設計されている。

ダブルシートはスプリング式で、後部にはツールボックスとキャリヤが備わる。

テールランプとウインカーは一体式。

クトリア(独)のベルグマイスターを規範にしながら、ライラック独自の技術を投入して大改革が行われた縦置き66度Vツイン。250㏄のLS18/38の最高出力が18.5/20.3psであるのに対して、ストロークの延長(54×54㎜→54×63㎜)で排気量を288㏄としたMF19/39は21.4/23.5psを発揮。

キャブレターはアマルミクニVM22。その後部に見えるエアクリーナーとバッテリー×2の配置は年式によって異なる。

ミッションは4段ロータリー。キックはBMWと同様の横踏み式だが、ベルグマイスターは一般的な縦踏み式だった。

ドラムブレーキはオーソドックスなリーディング・トレーリング式。実用車的なキャラクターのLS18のタイヤサイズが前後3.25×17だったのに対して。LS38は前後3.00×18。

後輪駆動はシャフト+ギヤ。この構造は規範のベルグマイスターにならった……という見方もできるが、ライラックは創業当初から全モデルにシャフトドライブを採用していたのだ。