アーカイブ

大排気量天国アメリカ生まれの8200ccバイク! 日本にも少数輸入された「ビッグカノン」の姿に仰天する

シボレーのV8エンジンを搭載したバイク、ビッグカノン

大排気量天国アメリカにはとんでもないバイクが存在する。
バイクマニアの方ならば、クルマ用V8エンジンを搭載した「ボスホス」の存在を知っているかもしれない(「ボスホスジャパン」という代理店が立ち上げられ、日本にも輸入が行われていた)。
しかし、ボスホスに匹敵する存在がまだあった。カノンモーターサイクル社による8200ccV8エンジンの「ビッグカノン」である。

全長は2850mm。日本製巨大バイクの雄、ホンダ ゴールドウイングと比べても300mm弱も長い。

ビッグカノンを製造するカノンモーターサイクル社とはどんなメーカーなのかというと、1990年代初頭に創業を開始し、自動車用エンジンを搭載したバイクの製造を行っていたSJHマニュファクチャリング社がルーツ。1997年に生産規模を拡大するとともに、社名を変更してカノンモーターサイクル社となった。

勇ましい姿のバイクに対し、カノン=KANNONの名の由来は意外にもほほえましい。カノンモーターサイクル社を立ち上げた社長のスコット・ホー氏には「Kassi」と「Shannon」というふたりの娘がおり、その名を組み合わせたのだそう。
ビッグカノンは2000年代に少数が日本に輸入されたのみで、現在輸入は途絶えているという。一体どんなバイクなのか、2000年当時の新車試乗記事を紹介する。

写真の車両は2000年当時にビッグカノンの正規輸入を行っていた「ベガスモーターサイクルズ」の車両。ベガスモーターサイクルズでは計2台を日本に輸入したという。

装備重量約690kgの巨体を誇るビッグカノン

バイクの魅力を一言で表すとすれば、ヒラリヒラリと軽快に、機敏に走れることだろう。そして、エンジンや車体の個性を、風を受けながら体全体で感じられることではないか、と個人的には思う。
しかし、このビッグカノンはそう単純ではない。理由は車体を見ても明らかなように、無理を可能にした乗り物だからだ。派手なカラーリングをまとっているものの、どこか重油を運ぶタンカーのような、一種異様な印象を受けずにはいられない。あまりの存在感に背筋がゾッとしそうなくらいだ。

力を込めて引き起こし、スタンドを払う。幸いシートの周辺は車幅が狭く、シート高自体も低いので足着きはいいが、装備重量は約690kg! この巨体は起こすだけでもけっこう手強い。
意を決してセルボタンを押すと、腹の奥で響く爆音とともに、右方向への激しい挙動で8200ccV8エンジンは目を覚ます。ものすごいトルクリアクションだ。調子に乗って、アクセルを開けたままセルボタンを押そうものなら、体ごと右側へ飛ばされそうだ。

ビッグカノン エンジン V8
8200ccのV8エンジンはシボレー用で、502馬力を発揮。8200ccエンジン以外にも、5000cc、5700cc、5800ccエンジンのモデルも存在する。
ビッグカノン V8
独自のオートマチックミッション「トランスマチック」を搭載し、シフト操作は踏み込んで「ドライブ」、手前に戻すと「ニュートラル」になる。

アメリカ・オクラホマ州北西部のケッチャムという町にあるカノンモーターサイクル社では、世界初のV8/V6フルオートマチックミッションを開発(特許を取得したとも言われる)。
その「トランスマチック」と呼ばれるミッションのシフトペダルを、クラッチを握ることなく「ドライブモード」へと踏み込む。ヘッドライト上部に位置するタコメーターを見ながら恐る恐るアクセルを開けていくと、けたたましい音とともにその巨体が動き出した。

しかし、走り出してしまえばなんてことはない。ふくらはぎがエキパイに当たらないように注意すれば、日本人の体型でもポジションは思いのほか無理も少ない。
車体は低重心で、もしタイヤの空気を抜いたとしたら、スタンドを使わず車体が自立するのではないかというくらいだ。また、重心が前方にあることもよくわかる。

ビッグカノン エンジン V8

アメ車のV8サウンドを股下から響かせる

エンジンの性格は荒々しく、サウンドは「アメ車のV8」そのものといえるドロドロドロ……というもの。
バンク角は浅く、言うまでもないが車体を寝かして曲がるバイクではない。キレイに曲がるためのコツは「回転するクランクの意思に反しないように曲がらせる」だ。
たとえば大きな右旋回をするときでは、コーナリング中にアクセルを開けるとクランクの回転に応じて、車体は内側へ内側へと振り子のように揺れる。
逆にコーナリング中にアクセルをパッと戻すと、その反動で車体はグラッと起き上がろうとする。つまりは、一定の開度でアクセルを固定し、あくまでも大きな円を描くようなイメージで曲がることが要求される。
当然、日本の狭い道に向くものじゃないし、交差点を曲がるときはスロースピードが原則だろう。

しかし、高速道路に入るとこの巨体の魅力がなんとなくわかる気がした。常に豪快かつパワフルな印象をライダーに与え続けるところは、ほかのどんなバイクにも代えがたい個性だろう。
巨大なタンクの下では8200ccがホーリー製のキャブを通じてうなり声をあげ、2032mmのホイールベースと重たい車重は少々の路面の段差をものともしない。
また、大きな弧を描くハンドル越しの眺めは、まるで海賊船に乗って大海原をクルージングしているかのような気分になる。

ビッグカノン V8
正面からでは巨大なラジエターに覆われ、エンジンを眺めることはできない。
ビッグカノン V8
後方から見ると、タンクの巨大さ、ハンドルの幅の広さが目立つ。

502馬力を秘めたエンジンでのクルージングは独自のフィーリング

最高出力502馬力というパワーはもちろん、「使いこなす」という概念からはほど遠いものだが、十分に余裕を秘めたエンジンでクルージングするというのは、なんとも心地いいものだ。
きっと片側4車線あるアメリカのフリーウェイを優雅に流したら、なおさらその魅力は浮き彫りになるだろう。なにせ日本の高速道路では流れに乗って走るにも3000回転以下で十分なのだから。
(試しに4000回転まで回してみたら、自分自身が大砲の弾になった気分だった……)

ビッグカノン メーター V8
ヘッドライト上部にあるのは回転計。タンク上には速度計&水温計がマウントされる。
ビッグカノン V8
駆動はチェーンドライブ。リヤサスペンションはスタンダードなツインショック。

乗り手が少しでもV8エンジンの気分を損ねるような接し方をしたら、とても収まりのつかないモンスターマシンではあるが、どこかおしとやかさを秘めた性格さえしっかり把握してやれば、身長172cmの日本人でもちゃんと言うことを聞いてくれる乗り物だった。
肝心なのは乗り手の気持ちだ。怪物も慣らせば慣れるものである。

ビッグカノンの足着き&ライディングポジション

ビッグカノン V8
身長172cmのライダーの乗車姿勢。ハンドル、ステップも遠くは感じない。シート高は635mm。

ビッグカノン主要諸元

【エンジン・性能】種類:水冷4ストロークV型8気筒OHV2バルブ ボア・ストローク113.5mm×101.6mm 総排気量8200cc 最高出力502ps 変速機:オートマチック前進1速
【寸法・重量】全長:2850 全幅:1210 全高:1270 ホイールベース:2032 シート高635(各mm) 乾燥重量:580kg タイヤサイズ:F140/90-16 R230/60-15 燃料タンク容量:26L+予備6.6L
【新車販売当時価格】800万円


レポート●別冊モーターサイクリスト 植田輝臣 写真●別冊モーターサイクリスト2000年10月号より 編集●上野茂岐

  1. ダックス125でボディサーフィンを楽しむ。バイクがあれば遊びはもっと楽しくなる。

  2. Rebel 1100〈DCT〉は旧車を乗り継いできたベテランをも満足させてしまうバイクだった

  3. 定年後のバイクライフをクロスカブ110で楽しむベテランライダー

  4. CL250とCL500はどっちがいい? CL500で800km走ってわかったこと【ホンダの道は1日にしてならず/Honda CL500 試乗インプレ・レビュー 前編】

  5. 【王道】今の時代は『スーパーカブ 110』こそがシリーズのスタンダードにしてオールマイティー!

  6. 新車と中古車、買うならどっち? バイクを『新車で買うこと』の知られざるメリットとは?

  7. ビッグネイキッドCB1300SFを20代ライダーが初体験

  8. どっちが好き? 空冷シングル『GB350』と『GB350S』の走りはどう違う?

  9. “スーパーカブ”シリーズって何機種あるの? 乗り味も違ったりするの!?

  10. 最も乗りやすい大型スポーツバイク?『CB1000R』は生粋のSS乗りも納得のストリートファイター

  11. 40代/50代からの大型バイク『デビュー&リターン』の最適解。 趣味にも『足るを知る』大人におすすめしたいのは……

  12. ダックス125が『原付二種バイクのメリット』の塊! いちばん安い2500円のプランで試してみて欲しいこと【次はどれ乗る?レンタルバイク相性診断/Dax125(2022)】

  13. GB350すごすぎっ!? 9000台以上も売れてるって!?

  14. “HAWK 11(ホーク 11)と『芦ノ湖スカイライン』を駆け抜ける

おすすめ記事

雨にも風にも負けない! クシタニアキュートジャケット『モニターレポート』2/2 クアッドロックから、バイクの振動からスマホを守る衝撃吸収ダンパーが登場 サイン・ハウスがバイク用インカム「B+COM SB6X」の最新プログラムを12月4日よりリリース

カテゴリー記事一覧

  1. GB350C ホンダ 足つき ライディングポジション