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【スズキDRビッグ試乗】最終進化形は800cc単気筒!「砂漠の怪鳥」と呼ばれたDR800Sの走りとは

Vストローム1050のルーツのひとつ、DRビッグ

2020年に登場するスズキVストロームシリーズの最新モデル「Vストローム1050」のデザインは、1988年のパリダカレーサー「DR-Z」(ディーアールジータ)と、その公道版モデルといえる「DR-BIG」(ディーアールビッグ)のモチーフを取り入れている。というのも、DR-ZとDR-BIGを当時担当したデザイナーが、Vストローム1050開発チームに加わっているのである。
では、スズキが「伝統」として大事にする「DRビッグ」とはどんなバイクだったのだろうか? 1988年のデビュー当時は727ccだった排気量を779ccまでに拡大し、高速性能も強化された最終進化形DRビッグ(DR800S)の新車当時のインプレッションを紹介する。


スズキDR800S:油冷779cc単気筒エンジンの独特な世界

スズキ DRビッグ
別名「デザートエクスプレス」、「砂漠を駆ける怪鳥」とも言われるDRビッグ(DR800S)には、第一に779CCシングルというエンジンに興味をそそられた。SACS(Suzuki Advanced Cooling System)の油冷システムと2軸バランサーの採用で熱的問題と振動に対処しているが、それなりの荒々しさを期待できそうだと思ったからだ。なにせクチバシのようなアッパーカウルのスタイルは、十分戦闘的かつ個性的(しかもスタイリッシュ)だし、走りにもそれが反映されているはず──。

ところが、エンジン始動は拍子抜けするほど容易だった。オートデコンプが作動してくれるから、ライダーはイグニッションをオンにしてセルボタンを押すだけでいい。
もちろん一発で始動し、ガラガラガラとそれなりに大きなメカノイズはあるが、思ったより軽いクラッチをミートすると発進も苦ではない。ドッと出ることを覚悟(期待)して恐る恐る出ると、そんなに出ない。このエンジンは低回転からトルクがわき出るタイプでないのだ。

それにしても意外だったのは、足を着いて停止していない限りではDRビッグが「ビッグオフ」を感じさせないこと。
重心の低さ(=安心感)ではアフリカツイン750にかなわないものの、ライディングポジションは3車中最もコンパクト。それはシングルエンジンのメリットである前後長、幅ともコンパクトに造れることが生きているせいだ。この点において、僕は普段の足であるXLR250から乗り替えても違和感がなかった。

スズキ DRビッグ

テスト車はDR800Sの後期型。前期型が左右別体式29L燃料タンクなのに対し、後期型は一体型24Lタンクとなる。またマフラーが2本出しになったほか(前期型は1本出し)、フォーク径、ブレーキディスク径なども前期型から変更されており、オンロードを重視した性格となっている

DRビッグ 足着き

シート高は890mmと高めだが、スリムな車体幅がそれを力バーしている。とはいえ身長173cmでは両足でつま先立ちとなる

かように「ビッグ」と名付けられながらもコンパクトなDRビッグだが、エンジン特性は当然250トレールバイクと比べるべくもない。60km/h以下といった日本の一般道レベルでは、「そんな速度で走るな」と主張するようにモガく。ギクシャクするのだ。ギヤリングが概ねハイギヤードなせいもあるだろう。とりわけハイギヤードな4~5速には入らず、街なかでは3速以下、交差点の曲がり角では2速でも高い印象である。
しかし、こんなせせこましい場所でのレポートはDRには反則かもしれない。なにせデザート(砂漠)とハイウェイでのエクスプレスが本分だからだ。

実際、高速走行ではそのリラックスしたライディングポジションとスクリーンによる防風効果もあって、快適である。テストコースで試したところ、トップの5速では100km/hで約4300rpm、120km/hで約5100rpm、140km/hで約5900rpm、約20km/h増速するごとに800rpm上昇するエンジンの旨味(パワーバンド)は、5000~7000rpmの間。

DRビッグ エンジン

大排気量単気筒で懸案となる熱と振動の問題は、スズキ独自の強制油冷システムSACSの採用、2軸バランサー装備でそれぞれをクリア。また燃焼効率向上のためツインプラグ化、レスポンス向上のためにデュアルキャブレターを採用する点も大きな特徴だ。後期型はオートデコンプも装着されている

常用可能な回転は3500rpmか4000rpmより上。よって高速でトップギヤに入れ気持よくクルージングできるのは100km/h以上となる。トルクの塊というより、高速になればなるほど振動も抑えられつつ回転が滑らかになり、フラットに上昇してレッドゾーンに到達してしまうビッグシングルだ。
トルク感というものに過大な期待をすると物足りなさを感じるものの(これはハイギヤードなせいもある)、大きな1個のピストンが、上下動を繰り返しているとは思えないほどの滑らかさには、ただ感心するばかりである。

気持よい回転域を使った高速での安定性も申し分ない。それに貢献するというアッパーカウルのダウンフォースも事実のようであり、高速コーナーでのハンドリングも、自然な当て舵から割と素直に車体を寝かし込める特性。テスト車は3万km以上走行しているオーナー車だが、前後サスに多少のヘタりが感じられるに過ぎない。かように快適で適度な速度での高速クルージングを終え、日本の典型的なダート林道に入ると、状況は変わる。

DRビッグ

細い日本の林道で存分に振り回すなら、相当な腕が必要だろう

DRビッグ ブレーキ

前輪は21インチホイールで、シングルの300mm径フローティングディスクに異径2ポットキャリパーがセットされる

DRビッグ サスペンション

220mのホイールトラベルを持つフルフローターサスペンション。オン、オフいずれのフィールドでも良好な路面追従性である

小砂利が敷かれてタイトなつづら折れが多く、直線はそんなに長くない日本の林道では、DRビッグはダートビギナーの私を手こずらせる。車体のボリュームによる精神的ストレスは同時にテストしたアフリカツイン750、XTZ750スーパーテネレより少ないものの、重心の高さに加え、アフリカツイン、スーパーテネレの2気筒エンジンと比べて、滑らかな回転域が割と高くて狭い範囲にあるDRビッグは、乗り手に腕を要求する。1~3速のギヤをやりくりし、さらに半クラも使ってオイシイ回転を探ろうとするが、結局乗りこなせた実感がない。

乗り手の腕不足もさることながら、ギヤリングが日本の林道にはマッチしているとは言い難く、低回転での意外なトルクの繊細さ(シビアさ)も手強い。しかし、ビッグシングルにしては軽快、かつ足まわりなどについては割と素直な扱いやすさを実感しただけに、もう一度鍛練を積んでDRビッグと相まみえたい気分にさせられた。

ところがDRビッグには、残念なことに1999年モデルがラインアップに加わっていない。欧州市場でのニーズが減少し、原型が1988年と古く、モデルライフが終わったというのがその理由だが、シングルエンジンゆえの車体造り、運動性能は熟成すればさらに面白い世界を見せてくれるはず。メカノイズの低減、そして低速での粘りといった味が盛り込まれた進化型DRビッグの登場を期待せずにはおれないのである。

特徴的な長いノーズのアッパーカウル(編集部註「ビークデザイン」としてVストロームに受け継がれている部分)は、エンジンへの冷却導風、フロントのダウンフォース発生による直進安定性向上などに貢献しているという

 

左に190km/hまで目盛られた速度計、右に7500rpmからレッドゾーンとなるタコメーター、そして中央にウインカー、ハイビーム、ニュートラルランプがセットされるメーターパネル

DRビッグ 燃料タンク

24Lと大容量ながら、スリムな燃料タンク。ハンドルもビッグオフとしては割とスリムな幅で、足着きを除けばコンパクトなライディングポジションと言える

DRビッグ マフラー

地味ながらすっきりしたリヤまわり。頑丈な荷台と左右出しのマフラーが特徴

DRビッグ

キー脱着式シートの下はエアクリーナー、MFバッテリーが納まり、テールカウル下が工具品書類入れとなる

 

スズキDRビッグ(DR800S後期型)諸元

【エンジン・性能】
種類:油冷4サイクル単気筒OHC4バルブ 総排気量:779cc 圧縮比:9.5 最高出力:54ps/6600rpm 最大トルク:6.32kg/5400rpm 燃料タンク容量:24L 変速機:5段リターン オイル容量:3.4L
【寸法・重量】
全長:2230 全幅:865 全高:1325 ホイールベース:1520 シート高890(各mm) 乾燥重量:194kg タイヤサイズ:F90/90-21 R130/80-17

試乗レポート●阪本一史 写真●もがきかつみ 編集●上野茂岐

*当記事は『別冊モーターサイクリスト1999年1月』の記事「国産ビッグオフロードモデルの現在」を編集・再構成したものです。

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