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10年の時を隔て、ともに国内の中型400ccクラスで大ヒットしたカワサキのZ400FXとゼファー。高性能からゆったり常用性能へと、そのアピールが変化するほどバイクの性能が進化した時代の中で、両車はどんなキャラクターを持っていたのか? そして根底に流れるものは? 2台の試乗を通して検証してみる。
■1979年4月15日発売のZ400FX初期型のカタログ(上)。 そして1996年3月20日発売のゼファーχ初期型のカタログ(下)。なおゼファーχの試乗車は、足まわりが小変更された 1997年発表の2型である。
高性能を誇りながらも、大らかさを感じさせるZ400FX
■海外向けモデルZ500の国内版スケールダウンモデルがZ400FXだが、単なるボアダウンでなく、ストロークも変更してパワー&トルク特性を見直し、当時のクラス最高出力40ps(=CB400T)を3ps上回った意欲作。高性能を誇ると同時に、ひとクラス上の車格と硬派なスタイリングを具現化した点もFX人気の見逃せない要因。
Z400FXの試乗車は、千葉県松戸市の中古車専門店からお借りした初期型E1の赤。今ではかなり希少であろうノーマル車だけに、価格は新車当時を上回る75万円(※注・1998年当時)だという。それでも購入するお客さんがいるほど人気は衰えず、同車の中古価格相場は1998年現在、50万~80万円で推移しているとのこと。1998年当時でも20年近く前のマシンだけに、お買い得な(内外とも好調な)タマはかなり数少なくなっている。
ともあれ、個人的にあこがれたマシンへの試乗となれば気分のいいもので、その昔、筆者より少し年上の兄さん方がカッコよく乗っていたのを眺めていた自分を思い出す。そんな1980年代初頭に一瞬タイムスリップさせられるほど、Z400FXのフォルムには、懐かしい上にバイクとしてのソリッドなカッコよさが詰まっている。また、フルノーマルのFXが、カスタムされた個体があふれる今の時代に、逆に新鮮でもある。
ところで、足着き性というものは、1980年前後の時代にはさほど気にされなかったのだろうか。Z400FXの当時のカタログの性能数値欄にシート高という項目はないし、実際足を下ろす部分のシートの縁も角の張った形状になっている。止まっているときより、走行時の座り心地のほうに配慮されているのかもしれず、座面の面積は広い。とは言え、Z400FXのシートはさほど悪い足着き性ではなく、身長173cmだと両足カカトが心持ち浮く程度だ。
また、この時代のバイクにまたがっていつも感じるのは、「あれほど大きく見えたタンクが、意外にスマートだったんだな」ということ。そしてタンクのニーグリップ部にタンクのホールドに配慮したようなエグリは付かない。現代のバイクのタンクは幅広く前後に短く、そしてハンドルは低め。一方で1980年前後のモデルはタンクがスリムで長く、着座位置からグリップまでの遠さを、ハンドルを高くすることで補っている印象がある。
背筋を伸ばした姿勢から自然に手を伸ばした位置にあるハンドルを握り、セルボタンを押してもZ400FXのエンジンはかからない。ギヤがニュートラルの状態でも、クラッチを切らないと始動しない機構が装備されているのだ。そして改めてセルを回すと、オヤジの平和なイビキのようなサウンドがゴーっと目覚める。
同系エンジンを搭載するゼファーとの大きな違いはボア・ストローク比で、Z400FXの52×47mmに対して、ゼファー&ゼファーχは55×42mm。ノーマルマフラーの排気音はおとなしいものだが、メカノイズは気忙しくないほどには存在する。スロットルをあおると、今の水冷マルチほどシャープに回転は上昇しない半面、重厚な印象すら感じさせてきれいに吹け上がる。43ps/9500rpmで当時は高出力高回転型をアピールしていたZ400FXのエンジンは、同系エンジンに大幅に手を加えたゼファーχのそれと比較すると前時代的だ。
一方でゼファーχのエンジンは、同じ空冷4気筒でも4バルブヘッドとなり、ボアを拡大した代わりに5mmのショートストローク化(これは1989年のゼファーから)、カム形状変更、K-TRIC(スロットル開度センサー)付き負圧式キャブレター採用、そして各部のフリクションの低減など、様々なリニューアルを施された。そして最高出力も53ps/11000rpmとなっている。
だが、Z400FXからゼファーχまでの約20年で、各ギヤの変速比から一次減速比に至るまで数値はそのまま。ただし二次減速比は異なり、ゼファーxのファイナルスプロケットの歯数が3T増えている。いわばゼファーxは、Z400FXより高回転まで回る分だけ(レッドゾーンは12500rpm、Z400FXは10000rpm)ローギヤード化されているようだ。
■「加速・巡行性能ともに、ひとクラス上の内容を約束します」とアピールしたエンジンは、クロスレシオの6速ミッションでスポーティな走りを実現。サイレントカムチェーン採用でのメカノイズと振動低減や、メンテナンスフリーのオートカムチェーンテンショナー採用をアピール。そのほか、ニュートラルの出しやすいポジティブニュートラルファインダー、ブローバイガス還元のPCV装置採用なども紹介している。
■1970~1980年代によく見られたパターンのオーソドックスなアナログ式2連メーター。80km/hに達すると赤いランプが点く速度警告灯付きで、メーターの80km/h以上での外周部にも赤帯が入る。これは当時、自動二輪車と軽自動車の最高速度が80km/h上限だったことによるもの。2000年以降より、自動二輪、軽自動車とも最高速度は普通自動車と同様の100km/hに引き上げられた。
■キャブレターと言えば、ミクニと京浜が2大勢力ながら、1970~1980年代には採用例も多かったTK(テイケイ気化器)製のK21Pキャブレター。スロットルと直結したワイヤーが、ピストンバルブを引っ張って持ち上げる強制開閉型。ボディ後部にはチョークレバーを装備。その後部上方には負圧式燃料コックを装備。
■今では、シート本体を取り外せるタイプが主流ながら、こうした片側ヒンジ付き横開きタイプのシートも1980年以前は多かった。シート後端のテールカウル内部は、大概けっこう大きな収納スペースが設けられた。
■前19/後18インチの車輪を持つ車体のハンドリングは、その当時なりの手応えを感じさせるが、セミアップハンドルでコーナー進入のきっかけを与えた後は、素直なリーン特性。これは車格の割に短めなホイールベース(1380mm)のせいもある。
時代に順応したゼファーの進化と、2台に共通するカワサキ空冷4発の匂い
■ゼファーの改良進化版となるゼファーχは、エンジンの大改良のみならず、ラジアルタイヤ装着、フロントブレーキや前後サスペンションの見直しや新作中空スポークホイール採用などで、走行性能を高めた仕様。
割と大きめなストロークと衝撃があるZ400FXのシフトを入れ、クラッチをつなぐ。ここ最近試乗対象が大排気量車ばかりで、400ccに乗るのは久しぶり。そのため、発進はモサモサした印象に感じる。1979年当時のZ400FXの試乗記には、7000rpm以上の加速は鋭いと書かれていたが、常用するそれ以下の回転ではライダーは大らかな気分になる。ライディングポジションを含めてクルージングしたくなる特性であり、小気味よくうなり続けるエンジンもBGMにちょうどいい。
トップ6速で、60km/h≒約3200rpm、80km/h≒約4300rpmと速度を伸ばしていくZ400FX。対するゼファーχは60km/h≒約3700rpm、80km/h≒約5000rpm。車速と回転の関係は二次減速比の違いのせいと思われ、パワー特性は意外によく似たものだ。ともに7000rpm付近を境にパワーが立ち上がるほかは、現在の水冷マルチ400ほど回転上昇はシャープとは言えず、フラットな特性。常用回転域でのゆったりした特性は2バルブのゼファーを経て、4バルブのゼファーχへ至ったとしても息づき、それがマイナス要素とならなかったことが、ヒットモデルとなった理由かもしれない。
街の風や匂いをスケッチするように走るマシン……。初代ゼファーのこんなコピーほど、絶妙なフレーズもあるまい。そして前述したように、ゼファーχよりも回転フィールがシャープで、絶対性能も高い400ccマルチは少なくない。ところが、ゼファーシリーズの人気の因るところは、せかさないクルーズ性能とその気になればそこそこに攻められる部分だ。そしてよくよく考えてみれば、それはZ400FXがすでに持っていた味でもあった。
国産MCに限って言えば、今は“シラッと速くて限界性能も高い時代”に入ってきたと思う。“そこそこに速く”が現代のメカニズムで作り込まれると、マルチエンジンはシャープな方向に振られがちだ。ただし、それが乗りにくさにつながらないことが現代のマシンの真骨頂だが、心理的に飛ばしたくなるエンジン特性を持ったものは多い。ブレーキもタイヤも車体も、20年以上前からは格段に向上しているだけに、それはそれでアリだが、ゼファー人気の根強さはそこそこの性能を望む層が少なからずいるという例証にほかならない。
レプリカブームが終焉し、ブームが一巡したことでゼファーシリーズが脚光を浴びたと言われる。だが、理由はそれだけではないというのが、今回の試乗で感じたこと。Z400FXとゼファーχの歳月の間には、ブレーキや車体、タイヤを含めた足まわり性能などに確かな差がある。しかし変わらぬのは、またがったときのフィーリングだ。走り出して5分とたたぬうちに、今までずっと乗っていたかのようになじむライディングポジションで、大らかなエンジンを味わう点は、いい意味で変わっていないのである。
■Z400FXベースと言えた先代ゼファーのエンジンに対し、ほぼ新設計と言える内容となったゼファーχの空冷4気筒ユニット。バルブ数変更(2→4)、カムプロフィール変更、キャブレター&排気系の見直し、燃焼室とピストン形状変更による高圧縮化(9.7→10.3)のほか、ピストンクーラーの設置、クランクシャフト全面新作でフライホイールマスを約12%低減。ほかにも、静粛性をねらったカムチェーンと周辺パーツの採用、変速ギヤやチェンジドラム部の見直しで、シフトフィーリングの向上もねらうなど、実に気合の入った改良を実施。ただしこのエンジンの搭載はゼファーχのみにとどまり、2009年4月発売のファイナルエディションで、空冷400cc4発の歴史に幕を下ろした。
■スタンダードバイクの雰囲気を重視したゼファーχでは、1990年代後半のモデルの造形としては、意図的にクラシックな雰囲気とした速度&回転計の2連メーターを採用。回転計のレッドゾーンが9500rpmからだった400FXに対し、ゼファーχは1万2500rpm以上からがレッド。なお、先代のゼファーは1万1500rpmからがレッド。
■1980年代後半以降の足回りの変化として大きいのが、ロードスポーツでのホイールの前後17インチ化と、タイヤのラジアル化。サスペンションの進化も含めて、こうした変更がロードモデルに運動性能の向上をもたらした。ゼファーχに装着される後輪も150/70サイズのラジアル(前輪は120/70サイズ)。
■Z400FXや初代ゼファーと比較して、全域にわたってスロットル操作に忠実かつ軽快なエンジンレスポンスが味わえ、高回転での伸びやかさも実現されているものの、同クラスのライバル機種と比較してゆったり感のあるパワーフィールは、根本で同じ。車体と足まわりの向上にともない、20年前のZ400FXよりスポーティなライディングポジションとされる(それでも緩やかな前傾に過ぎない)が、それも乗ってすぐに馴染める点に好感が持てる。
カワサキZ400FX(1979)主要諸元
■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボアストローク52×47mm 総排気量399cc 圧縮比9.5 キャブレター:TK K21P 点火方式バッテリー・コイル 始動方式セル
■性能 最高出力43ps/9500rpm 最大トルク3.5kgm/7500rpm
■変速機 6段リターン 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.380 4速1.125 5速0.961 6速0.851 一次減速比3.277 二次減速比2.500
■寸法・重量 全長2100 全幅785 全高1125 軸距1380 シート高—(各mm) キャスター2600′ トレール98mm タイヤ(F)3.25H-19 (R)3.75H-18 空車重量189kg
■容量 燃料タンク15L オイル3L
■価格 38万5000円(1979年4月発売)
カワサキ ゼファーχ(1997)主要諸元
■エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク55×42mm 総排気量399cc 圧縮比10.3 キャブレター:ケーヒンCVK30 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力53ps/11000rpm 最大トルク3.6kgm/9500rpm
■変速機 6段リターン 変速比1速2.571 2速1.777 3速1.380 4速1.125 5速0.961 6速0.851 一次減速比3.277 二次減速比2.625
■寸法・重量 全長2085 全幅745 全高1100 軸距1440 シート高775(各mm) キャスター27°00’ トレール102mm タイヤ(F)120/70ZR17 (R)150/70ZR17 乾燥重量183kg
■容量 燃料タンク15L オイル3L
■価格 58万円(1997年)
※この記事は、1998年11月号「別冊モーターサイクリスト」の特集「ヒットモデル今昔」での試乗記を再構成したものです。
文●モーサイ編集部・阪本 写真●もがきかつみ/カワサキ