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遊園地用の乗り物から生まれたホンダ・モンキー
125ccのレジャーバイクとして2018年に復活したホンダ・モンキー125。サイズアップした車体と排気量で大きく成長したが、1967年に初代が登場したモンキーは、2017年の同シリーズ生産終了まで空冷単気筒50ccエンジン+小柄な車体を特徴とした。そんな「動く玩具」として愛された50ccのモンキーシリーズだが、当記事では初代モンキー「Z50M」について解説していこう。

■開園当時の多摩テックで撮影されたと思われる遊具用「Z100」(1961年)の写真。公道市販車モンキーの原型となったモデルだが、子供でも乗れるサイズを意識して仕立てられたコンパクトな車体を同車から踏襲したモンキーは、その愛らしさから大人用のホビーとしても人気を集めることとなる。

■モンキーの原型と言える遊具用バイクの「Z100」(1961年)と、海外向けレジャーモデルの「CZ100」(1963年)。ともにベストセラーモデルのスーパーカブC100から流用の50ccOHV単気筒を搭載したが、全高の低いこの水平配置の単気筒が、子供にも足が届く車体設計に最適だったようだ。
初代モンキーZ50Mは「折りたたんで、出先で乗る」が売りだった
スーパーカブC100用OHVエンジンを独自の小型フレームに搭載し、多摩テックの子供向け遊具として1961年に誕生したモンキーの原型が「Z100」。それが進化し、スポーツカブC111用のタンクとシートを装備し、レジャーバイクとして輸出されたのが1963年に登場の「CZ100」だった。同車は主に欧州向けに2500台ほどが販売されたというが、一定の人気を得たことで気をよくし、また北米市場からも要望が高まったことで、ホンダはこれらミニレジャーバイクのフルモデルチェンジを敢行。スーパーカブ50(1966年)系OHCエンジンをデチューンし、モンキー専用のシャシーに搭載して量産化。1967年3月に国内販売されたのが、初代のモンキーZ50Mである。
発売当時の同車のキャッチフレーズは、「折りたたんで、どこへでも運べます」。つまり第一の用途は、クルマのトランクなどに積んで郊外に出かけ、現地で足代わりに乗ることだった。トランクに無理なく収まるよう、左右分割式のハンドルは固定ダイヤルを緩めれば下側に折れ曲がり、チェック柄のシートも、ワンタッチで後方に低く倒せるようになっていた。工具なしで小さくできる点が、同車の第一のセールスポイントだった。
また同車の原型だったZ100/CZ100と同様のコンパクトさを実現すべく、前後輪は小径の5インチとされ、前後サスペンションもストロークしないリジッドタイプ。いわば路面からの衝撃吸収はタイヤ内の空気が主として担い、ほかはシートのクッション、乗り手が受けるしかない構造だ。

エンジンはスーパーカブ50用の4.8ps/1万rpmを、2.5ps/6000rpmにデチューンしたもので、ミッションはカブ譲りの自動遠心式クラッチの3段変速。デチューン版の性能とはいえ、短いホイールベースの小さな車体には十分以上で、高出力よりトルク型に振られた特性もあってか、1速発進時には気を抜くと前輪が浮き上がるほどだったと言われる。
また、キャブレターは同車専用の小さな吸気ポートに対応する10mm口径のPW10を装備して出力も絞られ、最高速度は45km/hを公称。現実的なことを言えば、前後小径5インチの走破性(当時の記述には、カマボコ形状の路面の荒れた左端を走るとハンドルが容易に振られたという)や前後リジッドサスの車体にも、十分過ぎる動力性能だったとも言える。
そうした仕様ではあるものの、モンキーの当時価格は決して安くはない6万3000円。これは前年に登場したスーパーカブC50の価格(5万7000円)よりも高価。しかし、専用フレームを含めた車体のほか、折りたたむための各所の工夫、赤いフレームにチェック柄のシートといった機能と意匠に込められた技術やデザインセンスに大きな魅力ではある。
とはいえ、コンパクト化をねらうための電装簡略化によりバッテリーレスであることや、ウインカーなしのため方向指示は手信号が必要なことなど、現実の公道走行では、小型化と引き替えの不便さは拭えなかった。量産車最小をうたい、思い切ったミニマムサイズに興味を示したホンダファンは多いものの、ほぼ値引きなしの当時価格、現実的な利便性でのデメリットゆえに、当時の販売店では相当な在庫を抱えたとの話もある。
しかし、それから半世紀以上が経った現在では、Z50Mは趣味人のコレクターズアイテムとして珍重され、市場価格も個人間の譲渡でも、相当な高値で取引されているというのが実情である。

■前後5インチ小径タイヤ、折りたたみ式ハンドルや低く倒せるシートなど、四輪トランクへの車載性も重視されたZ50M。当時のカタログには「レジャーを楽しくする折りたたみ式小型バイク」とうたわれた。なお、小ぶりで愛らしいと評されたポイントのひとつ、前後5インチホイールは同車が最後で、次期モンキーは8インチへと大径化された。
現代の交通環境下で初代「お猿さん」に乗ってみる

公道量産車の中ではミニマムと言えるサイズだから、走り出しで身構えなきゃならないようなことはない。その半面、このサイズで公道を走ることに臆する気持ちは満杯だ。両足べったりのシートに腰を下ろし、ハンドルに手を伸ばすと、まず違和感が生まれる。あまりゆったりした姿勢ではなく、ハンドル位置が低くて落ち着かないのだ。シート/ハンドルの高低差が少な過ぎると言うべきか。また、5インチの前輪に操舵するという信頼感はとても生まれないし、このホイールベースでどんな走破性を見せるのかも不安。
交通量の少ない道を走り出す。シーソー式ペダルの前を踏んで1速に入れる。カブと同様の自動遠心クラッチだから、そこからスロットルを開ければいいだけ。静粛で軽やかなエンジン音を聞き、2.5psという公道車ではかなり小さな出力をなめてスロットルを開けると、ちょっと驚く。
短いホイールベースと、サスストロークでの吸収が全くない駆動は逃げ場がなくそのまま後輪にドンッとかかる感じで、フロントが簡単に上がる。ただし、小さな車体ゆえ慌てることはなく、その内収束する。気を付けたいのは、窮屈だからとあまり後ろに座り過ぎないことだろう。フロントアップで驚いた割には、その後のモンキーはあくまでトポトポと進む。そして走り出して以降はシフトアップしても、驚くような加速はしない(当たり前か)。
貴重で古い個体のため回し切ってはいないけれど、スロットルを一杯までひねっても、メーターの針は40km/hを少し超えるくらいだろうか。しかし、それでもこの車体では十分。30km/hを過ぎた辺りから、ハンドルはひょこひょことした軽さで不安要素が増すし(短い軸距、小径ホイールのせいだろう)、もし大きめの凹凸を通過したら、前後リジッドの車体はさらに暴れるだろう。
昔から愛用している人に聞くと、前後リジッドのZ50Mは、空気圧を標準以下にしないと吸収もグリップも危うい場合が多々あるとも聞く。だから、そんなに飛ばしたくならないし、なによりこの可愛いお猿さんにそんな仕打ち、似合わない。やっぱり初代のお猿さんは、トコトコとしか走っちゃいけないんである。
ホンダ モンキーZ50M「各部の特徴」


■吸気ポートやキャブ(ケーヒンPW10)小径化、コンパクトなアップタイプマフラーなどにより、同車専用にデチューンされたOHCエンジン。シリンダーに対してほぼ90度立てられたキャブレターの配置などに、コンパクト化の工夫が見える。自動遠心クラッチの3速はニュートラルを挟み、1ダウン2アップ。

■四輪車のトランクへ横倒しで積んだ際に燃料が漏れないように、キャップ上面に積載時の漏れ止めレバーが付いた燃料タンクは2.5L容量。旅先での移動用と考えれば、十分なガソリン容量と言えるか。

■ヘッドライトボディ上にビルトインされる速度計は、30km/h以上に赤帯が記された日本精機製。ハンドルトップブリッジ上左右の黒いダイヤルが、ハンドルを折りたたむ際に緩め/固定するレバーだ。

■シート裏のストッパーを解除すると、後方に倒れて低い位置となるシート。シート後端がテールライトを破損をカバーする役目も果たす。リゾート地でのレジャー用とはいえ、シート下に赤い円筒形の工具入れを装備。

■排気ポートからつながるおむすび断面形状の箱型アップマフラーもM型の特徴。排気菅にはヒートガードが付き、運搬時の火傷への配慮がなされる。直径10mm程度の細いテールパイプにより、消音効果は高い。

■小ぶりなヘッドライト、4.00-5インチの太めな小径タイヤ(純正は日東製)が特徴。撮影車はブリヂストン製トレールウイングを装着。1リーディングのブレーキ(110mm径ドラム)は、意外に不満の少ない制動力。

■フットブレーキレバー部後端が、直接後輪ドラムのアームを作動させる機構は、同車をコンパクトに作る工夫のひとつか。前後リジッドサスゆえに、クッション性は、空気圧の調整で行う必要があるようだ。
ホンダ モンキー Z50M(1967年)主要諸元
■エンジン 空冷4サイクル単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク39×41.4mm 排気量49cc 圧縮比8.8 キャブレター:ケーヒンPW10 点火方式フライホイールマグネトー 始動方式キック
■性能 最高出力2.5ps/6000rpm 最大トルク0.31kgm/5500rpm 最高速度45km/h
■変速機 常時噛み合い3速リターン 変速比 1速3.364 2速1.722 3速1.190 一次減速比── 二次減速比──
■寸法・重量 全長1145 全幅610 全高790 軸距810 最低地上高110(各mm) タイヤFR4.00-5(2PR) 車重47.5㎏
■容量 燃料タンク2.5L
■価格 6万3000円(当時)
まとめ●モーサイ編集部・阪本 写真●山内潤也/ホンダ
*当記事は、別冊オールドタイマーNo.26(2017年5月号)の「特集HONDA MONKEY」の一部を再構成したものです。