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高性能車がひしめく1980年代半ば、1985年に登場したセロー225。開発段階では、凡庸な性能でセールスポイントがないとヤマハ社内でも言われ、そのデビューは決して満場一致で推されたものではなかったようだ。
オフロード車と言えば十二分な足回りのストローク量を確保し、ジャンプでもガレ場のような道でも路面にヒットしない十分なロードクリアランスが確保されなければならない──それがオフロードモデルの車体として常道の発想だったが、それが万人にとっての正解なのか。
そうした疑問も持ってセロー225に関わった開発陣は、「二輪二足」でダートや山道に分け入る面白さを世に広げ、街なかでもツーリングでも気軽に乗り出せる利点に着目したユーザーの需要を掘り起こした。
セルを装備した第2世代(1989年〜)、リヤブレーキをディスクとした第3世代(1993年〜)を経て、21世紀に入っても熟成を続け販売が行われた。当記事ではセロー225の最後期型といえる「セロー225WE」を解説していく。
ヤマハ セロー225WE【第4世代】(1997~2000)「リヤタイヤをチューブレス化、燃料タンクを拡大」
セローの持つ幅広いシチュエーションへの適応力により、オフロード走行を楽しむユーザーだけでなく、ツーリングメインのユーザーも数多く獲得することになった。
それは万能とも言えるセローの能力ゆえの現象だったのだが、ツーリング派からはさらなる航続距離の増大や扱いやすさのアップ、そしてメンテナンスの容易さが求められていた。
そうした声に応える形で登場した4JG5は、フューエルタンク容量の増加に加え(8.8L → 10L)、キャブ口径を34mm径から31mm径へと小さくし、同時にフライホイールマスも増大させエンジンの中低速域でのさらなる扱いやすさを確保。
また、リヤタイヤには独自のスポーク形状を採用しチューブレス化を果たしている。とはいえ、これらはツーリング派だけでなくオフロード派にとっても歓迎すべき変更だった。リヤのチューブレスタイヤは極限の0.2~0.3kg/cm2くらいまで空気圧を落とし、以前はあきらめていたような難所を抜けることも可能としたのである。
そのほかユーザーフレンドリーな改良としては、ロック機能(ヘルメットホルダー兼用)付き大型ツールボックスの採用も挙げられる。
■このモデルチェンジで最大のセールスポイントは、リヤタイヤのチューブレス化。従来、スポークの首(曲がった側)をハブ側に引っかけ、ニップルをリムに貫通させて張り調整をしていたものを、まったく逆の配置をしたのである。スポークの首をリム側に設けられたリブに引っかけて、張り調整はハブ側のニップルで行う仕組みだ。
■フロントブレーキは新たに異径2ポットキャリパーを採用。あらゆる条件下での制動力アップをねらうとともに、タッチも向上した。
■1997年発売のセロー225WEのカタログ。森へ分け入るシーンで構成される内容は、歴代のセロー225シリーズでも同様だった。
■第4世代と呼べるモデルはカラーチェンジ1回のみ。写真のセロー225WE(1998年8月発売、型式4JG6)はセローファンの間で「おんぶセロー」と呼ばれるもので、タンク全面に施されたヒマラヤカモシカの絵柄が大きな特徴だ。この愛称については、「カモシカがライダーを背負っているように見える」ことから付けられたものだという。
ヤマハ セロー225WE【第5世代】(2000~2005)「環境規制対応を行った225の最終仕様」
21世紀の到来を控え、内燃機関を動力とするバイクには以前にも増して高い環境性能が求められるようになってきた。無論、セローもそこから逃れられるわけはなく、時代に即した対策を施すことになる。
エンジンには、鍛造ピストンに加えメッキシリンダーを採用し、空冷エンジンゆえの激しい温度変化の中でも安定した性能が得られるようになった。キャブにはTPS(スロットルポジションセンサー)が追加され、よりきめ細やかな点火時期などの制御が可能となり、さらに未燃焼ガスの燃焼を促進させるエアインダクションシステムも導入。新たに科せられた排ガス規制をクリアしたのである。
このモデルは5MP1に始まり、2002年4月の5MP2、2003年5月の5MP3と変遷していくが、車体色の変更のみである。
■前後輪にゴールドリムを装備し、上写真の緑とカタログ表紙のオレンジの2色展開で登場した2000年型のセロー225WE(5MP1)。当記事の編集担当(阪本)は同車のオーナーだが、この第5世代(5MP1〜5MP3)のみCDIユニットが一早く廃盤となっている。車齢20年を経て、電装系に交換時期が迫っていることを考えると、この状況は残念である。
■2000年以降の最終型の特徴は、エンジンに耐熱、冷却、信頼性に優れたメッキシリンダーと鍛造ピストンの採用したこと。キャブレターはアクセル開度情報を点火系マップに反映させるスロットルポジションセンサー付きのBSR(33mm径)を採用。
ヤマハ セロー225WE(2000年)主要諸元
*( )内は1997年型セロー225WE
■エンジン 空冷4サイクルOHC単気筒2バルブ ボア・ストローク70.0×58.0mm 総排気量223㏄ 圧縮比9.5 燃料供給装置BSR33キャブレター(BST31キャブレター) 点火方式CDI 始動方式セル
■性能 最高出力20ps/8000(8500)rpm 最大トルク1.9kgm/7000rpm 最小回転半径1.9m
■変速機 6段リターン 変速比 1速3.090 2速2.000 3速1.428 4速1.125 5速0.925 6速0.793 一次減速比3.318 二次減速比3.000
■寸法・重量 全長2070 全幅805(800) 全高1160 軸距1350 最低地上高285 シート高810(各mm) キャスター26°30′ トレール102mm タイヤサイズF2.75-21 R120/80-18 乾燥重量108(106)kg
■容量 燃料タンク10L オイル1.3L
■車体色 オレンジ、緑(赤、緑、紫)
■発売当時価格 38万9000円(37万9000円)
セロートリビア「車名はヒマラヤカモシカに由来したけれど……」
セローシリーズの車名となったSEROWとは、ヒマラヤカモシカのことで、カモシカが獣道を身軽に長距離を走り抜くイメージが、同車のコンセプトに合うために採用されたというのは、よく知られることだが、1985年登場時のセローのタンクに入ったカモシカの角は枝分かれしていた(上)。
「何か問題があるの?」と多くの人は思うだろうが、「これじゃあ単なるシカ」だと某団体から注文がついた……というのもセローのエピソードとしては意外と有名だ。すぐにデザインが修正され、翌1986年のカタログモデルではタンクの角は左右1本ずつに(下)。これで正真正銘のカモシカとなった。
ちなみに、同車には企画当初からペットネームを付ける予定とされ、別候補に「シルバーフォックス」という案も存在した。デザイン案も名前に沿った形で提案されたが、「岩場=カモシカのほうが見合っており、群れない動物というイメージもいい」と意見が集約され、集団暴走行為をしてほしくないとの思いも込めて「セロー」の車名が採用されたという。
レポート●神山雅道 写真●ヤマハ、八重洲出版 編集●阪本一史
追記2024年3月21日:1997年4月発売のモデルと、1998年8月発売のモデルの型式を誤って記載していたため、修正を行いました。