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1980年代以降、国産バイクのシートは薄く、低くなっていった? 一方、新型CL250/500は足着きより運動性重視の珍しい例かも

ホンダの新しい試みに感心「CL250/CL500は低価格で純正ハイシートを用意」

本国仕様や輸出仕様のシート、あるいは純正アクセサリーのハイシートを装着すると、乗り心地と着座位置の自由度が向上し、ハンドリングが軽快になる──。
1990年代以降の日本で販売されたロードモデルに対して、僕はこれまでに何度もそんな印象を抱いている。ではそもそもどうして1990年代以降の日本で、シートが低い車両が増えたのかと言うと、乗り心地や自由度や軽快さより、良好な足着き性を求めるライダーが多くなったからだろう。

2023年5月から発売が始まったCL250/CL500も、そういった事例に該当するモデルだが、近年のシートが低い車両と同列で語るべきではないと僕は感じている。と言うのも、まず開発ベースになったレブル250/レブル500と比較すれば、CL250/CL500のノーマルシートは格段に好感触なのだ。
しかも、乗り心地と自由度と軽快さに磨きがかかる純正アクセサリーのフラットシート(座面高はノーマル+30mmの820mm)の価格は、既存の常識で考えれば激安と言って差し支えない1万2540円なのである。

欲を言うなら、車両購入時にシートが選択できるといいのだけれど、+1万2540円なら異論を述べる人はそんなに多くはないだろう。いずれにしても、近年のロードバイクのシートに微妙な印象を抱くことが多かった身としては、ノーマルで足着き性に配慮しながらまずまずの快適性と運動性を確保し、本来の資質が満喫できるハイシートを低価格で販売する手法に、大賛成したい気分なのだ。

「ハイ」ではなく「フラット」という言葉を使用するCL250/CL500用の純正アクセサリーシート。その製品名には高さを強調するのではなく「体格的にOKなら、ぜひともこちらを!!」という開発陣の意図が表れている……ような気がする。座面の高さはスタンダードより30mmアップ
ホンダ CL250のスタンダードシート。シート高は790mm
ホンダ CL250フラットシート装着車
ホンダ CL250(スタンダード)

シートの歴史に対する個人的考察「レーサレプリカブーム以降、薄くなっていった?」

というわけで、ホンダの手法に感心した僕ではあるものの、改めて考えると、CL250/CL500のフラットシートに革新的な要素は無いのである。少なくとも1950〜1980年代前半以前のバイクは、CL250/CL500のフラットシートとほとんど同様の形状、ウレタンが分厚くて座面が平らなシートが普通だったのだから。そしてそういったシートが少数派になったきっかけは、1980年代のレーサーレプリカブームではないか、と僕は感じている。

ドリームCL250 ホンダ 1968
1960年代車の一例、初代のホンダ CL250(1968年)。クッションの厚いフラットなシートを装備している

もっとも、ブーム前半のレーサーレプリカのシートは意外に快適だったのだけれど、1980年代後半以降は薄いウレタンと前下がりの座面が定番化。サーキットや峠道での速さを重視したキャラクターや、低く構えたセパレートハンドル+高くて後退したステップとのバランスを考えれば、そういった変化は自然な流れだったのだろう。

また、1980年代後半以降のレーサーレプリカは、ウレタンを薄くした副産物として、シート高が一様に低くなった(一例としてホンダ車の数値を記すと、1981年型CBX400Fは775mm、1990年型CBR400RRは750mm)。もちろん、それは決して悪いことではないのだが……。

僕が微妙な印象を抱くことが多いのは、レーサーレプリカの次にブームとなったネイキッドのシートなのだ。車両全体は1980年代前半以前を思わせる雰囲気でも、日本のメーカーが日本を主なターゲットとして開発したネイキッドの大半は、シートだけがレーサーレプリカ風、ウレタンが薄くて座面が前下がりだったのである。

その背景には、アグレッシブなスタイルを好むデザイナーの感性や、レーサーレプリカブームを経験して低いシートに慣れたライダーからの要求があったようだが、1990年代以降の日本では「シートが高いバイクは売れない?」という風潮が徐々に広まり、一部の外車の日本仕様はローシートを標準化。だからこそ、冒頭で述べたような印象を抱く場面に遭遇する機会が多くなったのだ。

1974年「カワサキ Z1A」

世界中で爆発的なヒットモデルになったカワサキZシリーズを含めて、1950〜1980年代前半以前のバイクは、ウレタンが分厚くて座面が平らなシートが普通だった。ただし1980年頃からは、前後の微妙な段差が定番化。

1984年「スズキ GSX-R」

レーサーレプリカブーム前期に登場したモデルのシートは、進化の途中と言いたくなる形状。ブーム後半に生まれた車両と比べれば、ロングランが快適にこなせた。写真のスズキ GSX-R(400cc)はシート高780mm。

1981年「ホンダ CBX400F」

完全なフラットではないけれど、CBX400Fのシートはウレタンの肉厚が十分で、着座位置の自由度もしっかり確保。ちなみにCBX400Fの770mmというシート高は、同時代のライバルより低く、カワサキ Z400FXとヤマハ XJ400は785mm、スズキ GSX400Fは780mmだった。

1992年「ホンダ CB400スーパーフォア」

770mmというシート高はCBX400Fと同じでも、CB400SFのシートはウレタンが薄くて座面が前下がり。同時代のカワサキ ゼファー(400)やヤマハ XJR400、スズキ GSX400インパルスなども、傾向は同様だった。

2007年「ホンダ CB400スーパーフォア」

市場の要求に応える形で、CB400スーパーフォアのシート高は、1999年型で760mm、2007年型で755mmに変更。余談だが、2013〜2016年に国内販売が行われたグローバルモデルのネイキッド・CB400Fのシート高は785mmだった。

2023年「BMW F750GS」

写真はヨーロッパ仕様

近年のBMWが日本で販売するF750GSには3種のグレードが存在し、ローダウンショック&ローシートが標準装備となる「スタンダード」のシート高は770mm。ただし他の2つのグレード、「ベース」と「プレミアム」のシート高は本国仕様と同じ815mm。なお純正アクセサリーとして設定される欧州標準シートの価格は5万5330円。

日本は特殊な市場なのか……「足着きが良くないとバイクは売れない?」

さて、文章を書き進めているうちに車両メーカーや輸入元の姿勢に物申すかのような展開になってしまったけれど、欧米各国と比べると、環境的にはゴー&ストップが非常に多く、体格的には小柄な日本人の事情を考えれば、ローシートを望む声が多いのは当然のことだと思う。

とはいえ、CL250/CL500の2種のシートに感心した僕としては、こういった手法がもっと広がらないものかと感じている。近年の車両メーカーが純正アクセサリーとして販売しているハイシートの価格は、日本車:2〜3万円、輸入車:3〜5万円前後が定番だが、CL250/CL500のフラットシートと同様の設定だったら、多くのライダーが気軽に本来の資質を味わえるようになるのだから。

ホンダ CL250フラットシート装着車に乗る筆者

レポート●中村友彦 写真●渡辺昌彦/ホンダ/BMW/八重洲出版
編集●上野茂岐

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