バイク

匿名係長 第5回 ドゥカティ1199パニガーレの巻(前編)

上司の前では吐けない本音を覆面インプレッション !

 
上司が白いと言えばカラスも白い。それがサラリーマンの悲しき世界だ。そしてここにも、本音のバイクインプレッションを上司に報告できず、うっぷんを募らせ続けている男がいる。

彼の名は匿名係長。課長の目の届かない場所で、耳を傾けてくれる部下だけにバイクの本音を吐く毎日だ。今日その矛先が向かったのは、イタリアンスポーツバイクの代表選手、ドゥカティ1199パニガーレだ。
 
(※当記事はモーターサイクリスト2013年6月号の記事を再編集して掲載しています。なお、人物設定や会話はフィクションですが、バイクの印象については某ジャーナリストの話を基に構成しており、編集部の創作ではありません)

 

DUCATI 1199PANIGALE

カム駆動をチェーンとした超ショートストロークの完全新設計エンジン“スーパークアドロ”に、エアボックスを兼ねたアルミ鋳造モノコックフレームをボルトオンする現行ドゥカティの旗艦。クランクケースに後端にはスイングアームピボットも持ち、さらにリヤショックからの入力も後方シリンダーで受け止めるなど、エンジンを最大限にストレスメンバーとして使っている。電子制御の前後サスペンションやスロットル、ABSやトラクションコントロールといった電制デバイスも満載。スタンダードな「パニガーレ」、電子制御サスや鍛造ホイールを持つ「パニガーレS」、その特別塗色版「パニガーレSトリコローレ」、さらにチタンコンロッドや可変式スイングアームピボットなどを装備する最強版「パニガーレR」の4グレードを展開。日本仕様は最高出力が135馬力(本国仕様は195馬力)となり、車体右サイドに専用マフラーが装着される。
 

 

某月某日・深夜のオフィスにて

 

係長●おい「眠眠打破」買ってきて。

主任●ふぁ~あ、もうそんな時間ですか。

係長●俺はもう、サムライスピリッツのみで持ちこたえている状態だぞ。

主任●係長が作ったこのグラフと表、数字は合ってるんですか?

係長●さぁ、どうだろうな。ひとつ言えるのは重要なのはそこではない。この危機的状況下では、形だけでも「プレゼン資料っぽいもの」を作ること。それがミッションだと俺は判断した。お前とスナックで飲んでいたおとといの晩からな。

主任●あの時点からコツコツやっていれば、こうした状況に陥ることはまったくなかったわけですがね。しかし、ミホちゃんの膝頭をナデナデしつつ玉砕の覚悟を固めていたとは、さすが係長です。

係長●うむ。いいかよく聞け。資料の枚数は最低15、理想は20。うちパワポの図版が3分の1は欲しい。エクセルで作るグラフ類は2Dではなく、意味がなくても3Dを使え。それらしい元データは適当にググってこい。それでも埋まらなければ過去の資料を「昨年の例」とか、しれっと流用して水増しするのも手だ。

主任●さすが係長。〝ぱっと見は美しい書類作りのファンタジスタ〟の異名を欲しいままにするだけのことはあります。

係長●すでにロスタイムだけどな。

主任●まあでも、こうしてキャバクラに行く時間すら惜しんで働けば、残業代がもらえて少しでもあのバイクに近づけますよ。

係長●「~すら」の前提条件間違ってるけど、あのバイクって何だよ?

主任●弊社最強のスーパースポーツ好きとしては、そりゃあパニガーレしかないでしょう。あのカッコよさは驚異的ですよ。ドゥカティっていうメーカーらしさ満載の1台ですよね。

係長●ふうん、ドゥカティらしさね。

主任●おや? 何か違いますか?

係長●俺だけかな。パニガーレって、すべてにおいて従来の「ドゥカティらしさ」をかなぐり捨てた、今までとは真逆なバイクに見えるのは。

主任●係長だけですよ! フルパワー195馬力で装備重量188㎏ってスペック、尋常じゃないですよ? 最新の電子制御デバイスを満載し、TFT液晶メーターやLEDヘッドライト、オーリンズの電子制御ショックといった高級パーツも惜しみなく投入。性能と高級感を両立させた上にあのカッコよさ! 日本メーカーには作れない、ドゥカティの旗艦と呼ぶにふさわしい1台じゃないですか。あ、ひょっとしてあれでしょ? トレリスフレーム捨ててモノコックになったのを「ロッシも乗りこなせないレイアウトじゃないか」ってディスる人でしょ?

係長●ははは。まぁ、それもなくはないんだけど、俺は「ドゥカティ、変わったぞ!」と思わせる、モノコックよりも象徴的な部分があると思ったな。

主任●モノコックよりも? 何ですか?

係長●ライポジ。

主任●は?

係長●パニガーレと今までのドゥカティの違い。それはライポジの考え方だよ。中でも大きいのは燃料タンクの形状だな。

主任●え、燃料タンク?

係長●燃料タンクってのは、SSにとって非常に重要な操縦装置。見比べるとわかるが、1198までのスーパーバイクって燃料タンクの後端がそそり立っている。ブレーキング時にはあそこを使ってビタッと身体を支えられるんだ。そのときに腹に伝わってくるエンブレ感、あれはデスモのよさもあるのかもしれないけど“ドカならでは”の気持ちよさで、つまりはコーナーへの進入が快感だった。

主任●燃料タンク形状が気持ちよさを演出していたと。

係長●ま、ステップは位置が後ろ過ぎたり、バーのグリップ性が低くてやたらツルツル滑ったりと、気遣いが薄いのは新旧変わらないけどな。んで、パニガーレの燃料タンクを見ると、後端部がめちゃめちゃ「なだらか」だろ? つまり、もうここからのインフォメーションは得られないし、身体の支えどころもないって形状だ。ご丁寧なことに、パニガーレのシート表皮は非常によく滑るときたもんだ。つまりは減速、コーナーの進入を快感たらしめていた要素は薄らいだ。腕前が中途半端だと、どうしてもブレーキング時にハンドルで体重を支えがちになって、当然、気持ちよくは曲がれない。さらに言えば、1198までのハンドルはコーナーを攻めたときに決まる位置だったけど……。

主任●ああ、パニガーレって意外なほどアップハンドルですよね。

係長●1198に対して30㎜近く、10㎜高く、32㎜幅広になった。だから取っ付きはすごくいい。よくパニガーレが“初心者にも乗りやすい!”なんて言われるのはこのへんがミソだろう。でもコーナーを攻めた場合、少なくとも俺は1198ほどピタッと来る印象はなかった。一言で言えば、パニガーレはライポジがしっくり来ないんだよ。逆に、従来のドカってライポジは絶対に外さなかった。またがった瞬間は「?」でも、攻め出すとすべてがピタッと来て、バイクから潤沢なフィードバックが返ってくる。今までのドカのライポジは、その感じ取りやすさを最優先に決められていたと思うのよ。

主任●ぱ、パニガーレはそうではないと言うんですか!? 俺のパニちゃんは!

係長●どんなバイクも走らせているうち「ああ、こうやって走ればいいんだ」っていうインフォメーションに気付く。初期型の916なんか、すごく難しいバイクだったけれども、それでも1日ツーリングしていれば数回は“おっ、気持ちいい!”って瞬間があった。現時点でのパニガーレは、そういう類いのバイクでないのは確かだな。

主任●その要因がライポジなんですか。

係長●ライポジってバイクの性格を表わす鏡だからさ、それが変わったってことは、その上流にある何かも変わったと思って間違いない。それがテストライダーなのか、設計思想なのか、会社の方向性なのか、はたまた株主の意向なのか、そこまでは俺にはわからないけどな。

 

フレーム形態よりも変貌したものがある

1198など、従来のスーパーバイク系と共通の基本構成を持つ現行機種の848エボ。タンク後端は切り立った形状とされており、なだらかなパニガーレとの違いは明らかだ。

1199 PANIGALE


 

848 EVO

→次ページ:モノコックの元ネタは70年前にあった!?

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