バイク

匿名係長 第1回 BMW R1200GS(空冷最終型)の巻

上司の前では吐けない本音を覆面インプレッション !

上司が白いと言えばカラスも白い。それがサラリーマンの悲しき世界だ。そしてここにも、本音のバイクインプレッションを上司に報告できず、うっぷんを募らせ続けている男がいる。

彼の名は匿名係長。課長の目の届かない場所で、耳を傾けてくれる部下だけにバイクの本音を吐く毎日だ。今日その矛先が向かうのは、名車の誉れ高きアドベンチャーツアラー、BMW R1200GSである。

 

(※当記事はモーターサイクリスト2013年2月号の記事を再編集して掲載しています。なお、人物設定や会話はフィクションですが、バイクの印象については某ジャーナリストの話を基に構成しており、編集部の創作ではありません)


 

今月の被害車:BMW R1200GS(空冷最終型)

言わずと知れたビッグアドベンチャーツアラーの雄。空冷フラットツインをストレスメンバーに使い、フロントにテレレバー/リヤにパラレバーを配する車体構成は、94年のR1100GSに始まり、99年のR1150GSを経て受け継がれるもの。登場は04年で、08年に各種電子制御デバイスの投入、10年にはハイカムOHV→DOHC化などの改良が加わって完熟の域に到達……と思いきや、今秋のインターモトでエンジンの一部を水冷化した完全刷新版が登場。後を追うライバルにとって、つねに頭の痛いモデルと言えるだろう。


■某月某日・定食屋にて

係長●ゲフゥ~。お姉さーん、お茶のおかわり!

主任●で、どうなんスか?

係長●ん?

主任●アレですよ。GSですよ。新しい水冷モデルがお披露目されたところで、従来型・空冷モデルを総括というか、係長の本音を教えて下さいよ。

係長●ああ、その話か。聞きたいか?

主任●課長の前では絶賛してましたけど、アレ、係長の本音じゃないでしょ? 係長が唇をペロペロ舐なめてるときって、たいてい嘘かお世辞ですからね。

係長●お、お前、人の癖を的確に把握してるんじゃねえよ! 課長には絶対言うなよ! で何だ、R1200GSか。あれはな、ライダーを育てないバイクだ。BMWの信奉者はわんさか育つがな。

主任●いきなりバッサリですね。最近も、高名な元レーサーが購入意思を表明したらしいっていうのに。

係長●そういう、もう十分に育った人はいいんだよ。最初に断っておくがな、俺はGSの存在を否定するつもりはない。あれは1880年代後半から現在まで、速さと快適性を求めて進化してきたモーターサイクルの、2013年時点での最先端、ひとつの理想形だ。それを否定するのはバカか無知かのどちらかだ。

主任●なんで僕の顔をのぞき込むんですか。僕はGS大好きですもん。長距離の快適さはもちろん、コーナリングも超楽々じゃないですか。何も考えずに走らせても、峠でスーパースポーツをべったり追走できるんですよ。もう、自分がうまくなったようで最高ですよ。さらに……。

係長●ハッタリが利く、だろ?

主任●そうなんですよ! この間も高速のパーキングで、バイクなんか乗ったこともなさそうなオジサンが、ハーレーやドゥカティを差し置いてGSに食いつきまくってましたからね。普通の人に与えるインパクトがムチャクチャ強い。四輪ならハマーですよ。一般の人にスゲエ!って思わせたいなら今はGSですよ。

係長●じゃお前もGS買え。そしたらお前がお気に入りのナミちゃんも、同伴くらいはつき合ってくれるかもしれんぞ。

主任●でへへっ♥ マジで買おうかな。

係長●そういうのもバイクの楽しさだから否定しない。ただ、お前が言ったコーナリングのイージーさも含めて、最近のBMWは親切心が過剰すぎるんだよ。乗り手の腕や経験を問わず、誰もが気軽に速く走れるだろ。その結果、GSを含めた最近のフラットツインはどうしたってブッ飛ばしたくなる。オーナーはよく知っていると思うが、高速道路を鼻歌交じりで200km/h巡航なんて楽勝だぞ? 日本中のGSにそんな速度でブチ抜かれる、セレナやエスティマのお父さんの身になってみろよ。バイクのステータス性が高かろうが、乗り手の社会的身分が高かろうが、傍から見れば暴走族とおんなじだ。

主任●でもそれはGSに限った話じゃないでしょ。日本車も含めた世界中の大型バイクに共通することじゃないですか。

係長●いや、そのなかでもBMWは頭一つ飛び出している。お前も言ったよな。 〝BMWに乗るとうまくなった気がする〟 って。それは何を物差しに言った? ほかのバイクよりも速く走れたからだろ。それを実現させる技術力は大したもんだ。しかし、とてつもない速度を誰もが気軽に出せるという事実を、俺は肯定したくない。ブッ飛ばせる場面がある欧州なら話は違うが、少なくとも日本の交通事情は、R1200GSを筆頭とする最近のBMWには適していないはずだ。

 

●SPECIFICATIONS

■エンジン 空冷4ストローク水平対向2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク101×73mm 総排気量1,169cc   燃料供給方式 電子制御式燃料噴射 始動方式 セル ●最高出力81kW〈110ps〉/7,750rpm 最大トルク120Nm〈12.2kgm〉/6,000rpm●変速機6段リターン ●全長2,210 全幅940 全高1,450 ホイールベース1,520 シート高850/870(各㎜) ●タイヤサイズ Ⓕ110/80R19 Ⓡ150/70R17 ●車両重量229㎏ ●燃料タンク容量20ℓ ●価格209万5000円(ハイライン)/223万1500円(プレミアムライン)

 

 

■93年のレボリューション

 

主任●最近のBMWってことは、昔のBMWは違ったんですか?

係長●KシリーズやFシリーズを入れるとややこしくなるから、Rシリーズに話を絞るぞ。楽しめる速度域は昔から高かったが、今よりは常識的だったし、何よりも昔のBMWはライダーをもっと信用していたよ。2バルブ時代のRシリーズは、エンジンパワーもフレーム剛性も大したことなかったし、1000cc車は縦置きクランクとシャフトドライブのクセが盛大で、ある程度以上のテクニックを有したライダーでないと、BMWの意図する世界には到達できなかった。

主任●ハイペースで走れる能力はあるが、乗り手の技量に負う部分も大きかったと。

係長●そうだ。しかし、93年にフラットツインは完全刷新され、現行Rシリーズの始祖となるR1100RSが登場する。BMWはここで変わった。誰でも気軽にその世界を味わえる方向へ舵を切ったんだ。高性能の大衆化は、ビジネスとしては正しいだろう。でも、BMWというメーカーの気高さを崇拝してきた俺は思ったよ。〝ああ、BMWもライダーを成長させることを諦めて、手っ取り早く自社のファンを増やす道を選んだか〟と。

主任●それが冒頭の、親切心が過剰すぎるって話につながるわけですか。でも、具体的にはどういうことなんですか?

係長●簡単に振れが出なくなった車体、4バルブ化でレスポンスが向上したエンジンもそうだが、最大のポイントはフロントのテレレバーだな。この機構は操舵と緩衝の分離がねらいと言われるが、乗ったライダーが享受できる最大の恩恵は、フロントブレーキのバカ握りができることだろう。この時点ですでにBMWはABSを定番化していたから、路面状況をまったく問わず、誰もがいつでもどこでもガツーンとブレーキレバーを握り込めるようになった。その結果、従来のBMWではマストだった、ライダーの観察眼と危険回避能力が必要なくなった。

主任●う~ん、それって、安全でいいことのような気がしますけど……。

係長●確かにな。だが、それと引き換えに乗り手の技量は向上しなくなる。元レーサーならいいんだが、一般的なライダーがスキルアップしなくなることが正しいのか……って話だな。あの安心感を知ったら、ほかのバイクなんか乗れなくなるぞ。それもBMWのねらいかもしれんがな。とにかく、93年はフラットツインを刷新しただけじゃない。社是すらもフルモデルチェンジした、BMWの一大ターニングポイントだろう。

主任●そうなると、99年のR1150GSから採用された前後連動ブレーキや、08年型R1200GSから導入されたESA(電子制御サスペンション)、ASC(スタビリティコントロール)といった電制デバイスも、その流れに沿ったものということですか。

係長●何度も言うが、そういったGSの進化を否定するつもりはない。でも、歴代GSの進化をたどっていくと、俺の頭には〝マッチポンプ〟という言葉が浮かぶ。

主任●ひ、ひどい!

係長●我ながら失礼極まりないよな。しかし、ここ十数年でGSに追加されたさまざまな付加価値は、排気量とパワーとスピードが上がったから必要となったものだろう。04年のR1200GSで達成された約30kgの軽量化にしたって、先代のR1150 GSが重くなりすぎたとも取れる。そのあたりを考えていくとだ。余計なものは何一つ付いていなかった初代GS、排気量とパワーとスピードはまったく大したことはなかったけれど、車体が小さくて軽かったR80GS(80年)が、俺にはなんともすがすがしく、崇高なバイクに思えてくる。

主任●確かに、R80GSって現代では名車扱いですよね。中古車価格もかなりの高価で安定していて……(スマホで中古車検索サイトを探る)。

係長●まあ、BMWがR80GSをそのまま売り続けるような会社だったら、二輪部門はとっくに潰れていただろうけどな。メーカーが技術的な進化をさせたいと考えるのは当然のことだし。

主任●出てこないなー。タマ数も少ないから、出物があるとすぐ買い手が付くらしいですしね。でも、R80GSってほんとうにそんなにいいんですか?

係長●俺にとっては、という前提付きだが、笑っちまうほどいいぞ。50馬力しかないから絶対的なスピードはまったく速くないが、日常的な速度で充実感を味わえるし、オフロードに行くとR1200 GSより楽に走れる場面がたくさんある。公称装備重量は186㎏で、ホイールベースはたったの1465mm。229kg・1520mmの現行R1200 GSとは前提条件がまったく違うからな。この2台を同じ環境で走らせると、どんなに最新技術を投入しても、物理の壁は超えられないことがよくわかる。

主任●すげえ、ハチマルGSってそんなにいいのか。あのR1200GSより!

係長●もちろん、逆の場面だってたくさんあるし、象徴的な話をすれば、たぶんナミちゃんはナンパできないぞ。R1200GSはあの車格だからハッタリが効いて、そこから生まれるオーラが人を惹き付けるんだからな。

主任●じゃあ、R1200GSを小排気量化したライトウエイト版を出すとか。

係長●それが1200より高かったとして、お前は買うのか? 乗り味がすばらしかったとしても商品性がないだろう。それがわかっているからこそ、BMWはHP2エンデューロを台数限定で、241万5000円で売ったんだ。あのバイクには2バルブGSを受け継ぐ感触があったけど、いかんせん本気汁あふれるキャラクターだったからな。誰もが楽しめる特性ではなかった。値段的にもな。

 

R80GS(80年)

▲現在のビッグアドベンチャー車の始祖と言える存在で、BMWのワークスレーサー・GS800のレプリカ車として誕生。798ccの空冷ボクサーは50psを発生

 

R1100RS(93年)

▲69年のR75/5に端を発する2バルブボクサーに代わる、4バルブボクサーの第一号車。ハイカムOHVやFIの採用をはじめ、フロントサスペンションにテレレバーを初投入

 

R1100GS(94年)

▲R1100RSに次ぐ4バルブボクサーの第二弾。エンジンはRSよりもやや中低速型とされ、−10馬力・+0.2kgmの80馬力・9.88kgmを発生。装備重量はRS+4㎏の243㎏

 

R1150GS(99年)

▲+45ccの1130ccから85馬力・10.0kgmを発生。車重は249㎏へ増加。そしてこの後、04年のR1200GSではエンジンにバランサーが追加され、車重は30㎏減の220㎏に

 

新型R1200GS(水冷)

▲燃焼室周辺を水冷化しつつ、シリンダー冷却には空冷も併用する新エンジンを搭載し、排気量やボア・ストロークは空冷と同値ながら+15馬力の125馬力を発揮する。ダウンドラフト吸気化やミッションのクランク下配置など、レイアウトも改めて大幅な小型化も実現。10~20年先を見据えたかのような完全刷新版となっている

 

■GS=ガッポガッポ・システム?

 

主任●そもそもR1200GSの下には、弟分のF800GSとF700GSがいますしねぇ。

係長●そういうことだ。むしろF-GS系は2バルブGSに近い性格だぞ。HP2で価格の話が出たが、R1200GSは価格が高すぎると思わんでもないし。

主任●それは安月給な僕らのひがみでしょ、係長。2グレードのうち、STDなハイラインで209万5000円、ESAやASCが標準のプレミアムラインが233万1500円ですけど、能力を考えたら高くないですよ。

係長●現行R1200GSの基盤を作った、94年のR1100GSは162万円だった。これが99年のR1150GSで177万円になり、04年のR1200GSで197万4000円(キャストホイール仕様)だ。モデルチェンジごとにバンバン値上がっているんだぞ。同じ94年で比較すれば、ハーレーのFLSTFファットボーイは203万円で、ドゥカティの888ストラーダは191万円だった。ファットボーイは今でも219万円だし、ドゥカティの1199パニガーレだって209万円だ。BMWに比べれば、ハーレーやドゥカティの値上げ幅なんてかわいいもんだろう?

主任●でも、よし悪しはともかく、さまざまな最新制御を投入したり、エンジンも途中でDOHC化したり、アップデートを欠かしていないですよ。お金をかけてますよ、BMWは。

係長●そう見えて、現行Rシリーズの基本的なコストはかなり低いと俺は踏んでいる。車体もエンジンも、基本的な構成は93年のR1100RSと同じだぞ。いや、同じは言いすぎか。あらゆる部分に改良が施されているが、根本的な思想は20年前から変わっていないんだぜ? さらにだ、このベースをオンオフのGS、ネイキッドのR、ツアラーのRTと3機種で共用して使いまわす。ホンダのNC700も真っ青じゃねえか。

主任●げっ。言われてみれば……。

係長●この内容にこの値付けで、GSは世界中で年間3万台(アドベンチャー含む)も売れている。BMWは笑いが止まらないだろうな。他社が躍起になってライバル車を投入してくるわけだよ。それでも、ビッグアドベンチャー市場は8割をGSが押さえ、他社は残り2割のパイを奪い合っているという、GSが独裁者のごとき構図なんだぞ。

主任●ギレン・ザビに言わせれば「圧倒的じゃないか、GSは!」ですな。ムスカ大佐なら「見ろ、○×(バイク名)がゴミのようだ」と叫ぶでしょうな。

係長●ま、俺たちも課長という名の独裁者に「あえて言おう、カスである」と、蔑まれ続ける日々だがな、ケッ。

 

♪ピロピロピ、ピロリロ(携帯に着信)

 

係長●かっ、課長! お疲れ様でございます。はい、今は主任と昼食中でして。は、GSですか? 水冷の、ええ。へ? ご予約!? ――さっすがは課長、お目が高くいらっしゃいますな! BMWのGSと言えば、現時点最良のモーターサイクルと申して過言ではありません。まさに王者の風格、次世代の王たる課長にふさわし……いやいや、何をおっしゃいますか。選ばれし者は選ばれしマシンを駆るものですぞ。ぐふっ。いやいや、これは1本取られた。さすがは課長だ! いやいやいや、いや~参った~~。(第1回:完)

 


93年から引き継がれる車体構成

縦割りのクランクケースにテレレバー関係の全構成部材が連結されるフレームレス的な車体構成は、93年に完全新作の4バルブフラットツインを引っさげて登場したR1100RS以来、HP2エンデューロ/メガモトを除くフラットツイン全車に踏襲されるレイアウト。スイングアームピボットはR1150GSで外側からプレート補強され、R1200GSではやはりクランクケースから生えるシートレールでも支持される形態へ進化したが、基本的な構成は不変のままだ。水冷化された新R1200GSでも、テレレバーを支持するパイプの配置が改められる(ステアリングヘッドとスイングアームピボットの間を直線的に結ぶパイプも配された)ものの、大まかな形態は従来型を踏襲している。

 

R1100RS(93年)

R1200GS(04年)

新型R1200GS(水冷)


今回の「匿名係長」DATA

性 別:男

血液型:A

星 座:射手座

嫌いな食べ物:ブロッコリー

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