ヒストリー

【傑作昭和レーシングマシン列伝】其の7:グランプリを席巻した タンデムツインの軌跡(前編)

180度から360度への転換

KR Tandem–Twin

’70年代初頭、当時のカワサキはロードレース活動を、3気筒のH1-RやH2-Rなどの量産公道車の設計をベースにした市販レーサー中心で行なっていた。
この方針を転換し、250㏄の純然たるワークスレーサーを造ることを決定したのは’73年のことだった。
その決定が下される1年前の’72年、カワサキはレース部門を組織変更していた。

従来はセクションごとにロードレーサーやモトクロッサーを開発するやり方だったが、レース部門を統合することでより効率の良いやり方に改めるために第1技術部開発1班を設立している。
これを機にカワサキ製モトクロッサーは車名にKXを名乗るようになり、ロードレーサーはKRを用いることにした。
以降誕生することとなるKRの第一世代は、H2-Rを水冷化したKR750、そしてタンデムツインのレイアウトを持つKR250だった。

●初期のKR250用エンジンは、シリンダーが両気筒一体型だった。500㏄スクエア4のKR500の開発が始まってからの、’80年型以降のKR250のシリンダーはセパレート型となる。タンデムツインはエンジンの前後長が長くなりがちなレイアウトだが、KR250は2本のクランクシャフトを1.6㎝弱オフセットすることで、前後のロータリーディスクバルブハウジングをオーバーラップさせており、コンパクトにまとめ上げることに努めている。

新規に250㏄レーサーのレイアウトを決める際には、当然のことながら様々な案があがった。
吸入方式については’60年代から培ってきたロータリーディスクバルブでいくことがまず最初に決まった。
タンデムツインの採用について、当時の関係者はふと思いついたと発言しているが、かつてMZが試作したとあるエンジンの存在が、着想のヒントとなったと思われる。

近代レーシング2サイクルの父と呼ばれたMZのW.カーデン技師は、’69年に43㎜スクエアの125㏄タンデムツインを試作していた。
この試作エンジンは既存のMZ製並列2気筒よりも80㎜幅が狭く仕上がっていた。
そもそもMZの125㏄タンデムツインは、250㏄版を造る前のスタディとして企画されたものだったが、財政難に陥っていたMZにはこの開発を進める余裕はなく、結局250㏄版タンデムツインはこの世に現れることはなかった。

カワサキ開発陣にはそのような意識はなかっただろうが、結果的には250㏄タンデムツインのKR250開発は、カーデンの夢の続きを引き継ぐ作業になったのは確かだろう。
ともあれKR250のレイアウトはMZのコピーではなく、MZの試作エンジンよりも洗練された構成であった。
文字どおりクランクを縦にふたつ並べたため前後長が長くなってしまったMZ試作エンジンに対し、KR250はふたつのクランクをオフセット配置することで、前後長を最短に収める努力が払われている。
冷却系は自然循環式だったMZに対し、インペラを使い冷却水を圧送する方式を採用していた。

●後期型KR250の機関構成部品群。ここにはCDIローターや2器のキャブレターが映っていないが、如何にKR250がシンプルに造られているかを知るには充分であろう。クランクケースはマグネシウム合金ではなく、アルミ製だった。

クランクケースはマグネシウム合金製。
シリンダーブロックは冷却水を流すこともありアルミ合金で製作。
エンジンマウントはラバーマウント(これは後述する振動問題対策で、振動問題がすっかり解決した後期型モデルではリジッドマウントとなった)。
ロータリーディスクバルブはFRP製で厚さは1㎜ほど。これを収めるカバーはOリングでシールされ、その外側にはミクニ製キャブレターが取付けられていた。
コンロッドは両端にケージドローラーを採用。鋳造ピストンは1本リング仕様で、テーパーセクション型のリングが組み合わされた。

’75年のデイトナに出場するために製作された初代KR250は、後輪計測で51ps/10,650rpmをマーク。
そして予選では首尾よく1位の座を得ることに成功した。しかし順調に事が進んだのはここまでであり、迎えた決勝レースでは強烈な振動によりメカニカルトラブルが発生。
リタイアを強いられる結果に終わったのである。

●デビューレースとなった’75年デイトナを走るKR250とR.ピアス。予選では見事1位となったが、決勝レースでは振動による点火系のトラブルに見舞われ、リタイアを強いられるという結果に終わった。

このいかんともし難い振動の問題は、KR250に与えられた独創さに由来するものだった。
KR250エンジンの2本のクランクは、前側が車体左から見て時計回り、後ろ側が反時計回りする方式であった。クランクピンの位相は180度で、点火は180度等間隔。
これは360度位相の同爆よりも、スムースなトルクと高回転でのパワーの上積みが期待出来ることを見込んで、採用された仕様であった。

しかし実際は、このレイアウトは互いのピストンが上死点・下死点にあるときこそフライホイールのカウンターバランサーとの釣り合いがとれるのだが、互いのピストンが上死点と下死点の中間位置で並んだときに、カウンターウエイトの不釣り合いが水平方向の強烈な振動となって現れるのである。
この問題の解決方法として選ばれたのは、前後クランクのクランクピン位置をそろえ、360度同爆にするという仕様変更だった。
互いのピストンが上死点と下死点の中間地点にあるときに、互いのフライホイールのカウンターバランサーが向かい合いことになり、水平方向に生じる振動成分を打ち消し合うことが出来た。

●前側クランクシャフト右端では点火系のCDIローターを駆動。後側クランクシャフト右端ではクラッチ、ウォーターポンプインペラ、そしてタコメータードライブギヤを駆動している。ウォーターポンプから吐出される冷却水は、最初にシリンダーヘッドに送られるレイアウト。初期の180度クランクのころは強烈な振動により本来のポテンシャルを活かすことができなかったが、360度クランクへの変更後は無類の強さ発揮するようになった。

言わば単気筒エンジンのような同爆を採用することは、180度等間隔爆発よりもトルク変動の大きな力が、ギヤ類やベアリング類などの様々な構成部品に負荷をかけることになる。
KR250のエンジンは元々180度等間隔爆発を前提に設計していたため、各構成部品が容量不足で壊れないか、という不安はあった。
しかし実際にエンジンを運転してみると、振動が減少したことによるメリットのほうが圧倒的に大きかった。

●’75年デイトナのレギュレーションに合致させるため、25台のKR250が海を渡ったという。ボックスセクションのスイングアーム、左側に取りまわされたリヤシリンダー側チャンバーが、’75年デイトナ車の特徴だ。

同爆仕様の’76年型エンジンは、180度等間隔のKR250を上回る55ps/11,000rpmを後輪出力で記録。さらにレースの競い合いで有利にはたらく、加速の良さという長所も同時に得ていた。

 

後編はこちら(順次公開)

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